性暴力は、「魂の殺人」とも呼ばれている。子どものころに受けた被害は、心身に深い傷を刻み込み、その後の人生にも大きな影を落とす。当事者たちはどのような環境下で被害に遭い、どんなトラウマを抱えて生きているのだろうか?
ここでは、当事者たちの声を収めた書籍『ルポ 子どもへの性暴力』(朝日新聞出版)より一部を抜粋。実の母親から性暴力を受けた男性の声を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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高2の相談「彼女」は実の母だった
「いつも真剣に聞いてくれているのに、ウソついてごめんなさい」
電話の向こう側で、高校2年の少年が声を震わせながら打ち明けた。
「実母にセックスを求められる」
そう言って、少年は激しく泣いた。さらに、「コンドームを使うか使わないかも全部母が決める」とも話した。
その話を聞いていたのは、長年、若者から性の問題について電話相談を受けている医療職の梅原花江さん(仮名)だ。
少年から梅原さんに、最初に電話がかかってきたのは、2020年秋だ。そのとき少年は「母から性器を触ったらだめだと言われて育った」などと話し、自慰行為について相談してきた。その後も週に1回ほど、電話やメールで連絡があり、約1年、やりとりを続けてきた。
中3の頃から母親が風呂に入ってくるように
相談は、彼女との関係やセックスに関する話の他、「コンドームがうまくつけられない」「彼女に生理がこなくて妊娠が心配」といった内容もあった。
この日、少年から初めて実母との関係を告げられた梅原さんは頭が真っ白になった。「これまでの相談はすべてお母さんとのこと?」と電話越しに尋ねると、少年は「全部そうです」と答えた。
少年によると、少年は母と2人で暮らしている。中学3年のころに、交際相手と別れた母が風呂に入ってくるようになった。母は体を洗ってくれ、性器を触ってきた。「ごめんね」と言いながら、射精するまで手を動かした。