性暴力は、「魂の殺人」とも呼ばれている。子どものころに受けた被害は、心身に深い傷を刻み込み、その後の人生にも大きな影を落とす。当事者たちはどのような環境下で被害に遭い、どんなトラウマを抱えて生きているのだろうか?
ここでは、当事者たちの声を収めた書籍『ルポ 子どもへの性暴力』(朝日新聞出版)より一部を抜粋。実の母親から性暴力を受けた男性の声を紹介する。(全2回の2回目/最初から読む)
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性被害の後遺症としての「ママ活」
少年は友人宅に行くなどして、なんとか母を避けようとしたが、「寂しいと言って泣くので、かわいそうになって応じた」などと言い、後ろめたさを感じながら、母からの求めに応じていた。
2022年6月、少年から梅原さんのもとに、こんなメールが届いた。
「母に彼氏ができた。見捨てられた。ゲス母。怒」
電話もかかってきて、1時間半ほど話を聞いた。少年は母親の悪口を言い、母親のことを「加害者」と繰り返した。数日後、さらにメールが来た。
「ママ活した。3万もらった。大学は薬学部を受けたい。母から離れたい」
「ママ活」の相手はいずれも50代の女性で、2人いるという。毎週末に会って、食事をごちそうになり、話を聞き、セックスをして4万円をもらうと教えてくれた。少年にとっては「セックスが上手」「かっこいい」などと褒められるのは気分がいいが、罪悪感もあり、「自分もクソなことしている」と自覚する。
相談を受け続けてきた梅原さんは医療職で、長年、電話やSNSで若者の性の問題についての悩みを聞き、学校現場でも講演をしてきた。少年について「母親に新しい彼氏ができて捨てられたことがわかり、自分が道具として使われてきたことを悟ったようだ」とみる。
「『ママ活』は性暴力被害の後遺症としての性化行動。母親に征服された体で、母親と同世代の女性の体を征服することで、なんとか自分を保っているのだと思う」
自分の性を自分でコントロールしようと性行動に出る
性被害は自分の性を加害者にコントロールされた経験だ。被害者は男女を問わず、その体験を塗り替えたくて、自分の性を自分でコントロールしようと性行動に出ることは珍しくない。
高校3年になった少年は勉強しているときだけが「自分でいられる時間」と話す。また、「自分の体は自分のもの。だから自慰は悪いことじゃないと(梅原さんから)聞いたときは衝撃的だった」と梅原さんに打ち明けた。