なまけているのではなく、厳しい状況に置かれている

【おば】たしかにさっき聞いたような家庭環境は、戦地で言えば命の危険性が一番高い最前線よね。

【安部】ホームレスって、なまけている人ではなく、厳しい状況に置かれた人なんだよね。

【おば】なるほどねえ。

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【安部】ここまで話してきた「資産」っていうのは、戦場で言えば兵站で、武器や装備なわけ。それさえあれば、生き残れる確率がぐっと上がる。戦いでは最前線にいる兵士に敬意を持って援助物資を送るじゃない? でも現実には、最前線にいる人に武器や装備を送ることなく、突き放している。

【おば】それは戦えないどころか、生きていけない。

【安部】そうなのよ。ただ、ぱっと見た感じ「資産」の有無なんてわからないんで、「なんであいつはがんばれないんだ?」って思われちゃう。そもそもの前提条件が違うのに。

ホームレスに「自己責任論」がつきまとうワケ

【おば】これっていわゆる自己責任論ってやつでしょう? この風潮があるのって日本だけなの?

【安部】日本だけってことはないけど、国の宗教性の影響は強いでしょうね。たとえばクリスチャンだと、社会をよくするために困っている人に手を差し伸べることが当たり前に根づいているとか。

【おば】マザー・テレサとかもそうよね。

【安部】宗教じゃないけど、階級社会が強かったフランスの「ノブレス・オブリージュ」とかもそうだよね。貴族とか高い地位にいる人は、社会をよくしていく責任がある。だから社会課題を個人の責任ととらえず、寄付をしたり活動をしたりする人がいる。

【おば】クリスチャンでもなければ、貴族でもない私たち……。

【安部】まあでも、日本で自己責任論の風潮が高まったのはやっぱり過去30年、経済が成長してないからだとおれは思うけどね。かつて日本は高度経済成長期にがんばったぶんだけちゃんと成長した。「一億総中流」と言われて、みんながある程度豊かな時代もあったわけ。

【おば】そんな流行語があったわねえ。懐かしい。