活仏といえば、日本ではチベット亡命政府の指導者であるダライ・ラマ14世のイメージが強い。だが、実はチベット仏教の世界における活仏はかなり一般的な存在であり、中小寺院のマイナーな活仏を含めると、千数百以上の名跡が存在する。とはいえ、もちろん個人が好き勝手に名乗れる肩書ではない。

ニセ活仏として約43億円を荒稼ぎ

 王興夫はもともと気功師だったが、中国政府が法輪功(党体制に敵対的な気功集団)を弾圧して気功が当局から睨まれた2000年から、インチキ仏教ビジネスに鞍替えしたらしい。中国側の報道によれば、彼は2008年に甘孜州石渠県にあるゲルク派のチベット仏教寺院・俄若寺を訪問、寺院側の協力者の助けを得て「洛桑丹真」「降巴洛桑丹真」というチベット名の2種類の身分証を得たという。

 王興夫はそれからニセ活仏としての活動を通じて1.98億元(約42.53億円)を荒稼ぎし、12物件の不動産を取得。彼の「宗教活動」は軌道に乗り、瀋陽・北京・済南・成都など全国8ヵ所に道場を設けて、中国全土から信者3000人を集めた。

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 彼は潅頂(香水を頭に落とし仏縁を結ぶ密教の儀式)1回につき5万元(約107万4000円)のお布施を受け取り、ネットショップで購入した100元(約2148円)程度の壺を数千元で信者に売るなど、好き勝手をやっていたらしい。報道によれば、若い女性信者数人にマインドコントロールを施し、性的暴行も加えていたとされる。

©moonmoon/イメージマート

(ただし、中国当局は「迷信」「邪教」の信奉者や民主化活動家、汚職官僚などの政治的に攻撃したい相手について、金銭スキャンダルや性的な不行跡をでっちあげて評判を落とすプロパガンダをしばしばおこなう。実際の被害金額や性的暴行の有無については不明である。)

書籍カバーイラストは細居美恵子氏、中国四川省の美姑県に住む少数民族「イ族」の民族衣装姿の女性を描いてもらいました
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