「目立たない」というのも同様だ。派手な服を着てはいけないということではなく、周囲の環境にあったものを選ぶのが重要だ。表参道や銀座ではハイファッションに身を包んでいても周囲に馴染むだろうが、霞が関では浮いてしまう。

 服だけではない。時計、車、バッグ、靴、髪の色。外見だけでも要素は多くある。自分に特徴的なものはいったいなにか、たまに振り返ってみるのは、防犯対策としてもいいことだ。もっとも、飛びぬけて背が高いなど、隠しようがない身体的特徴があれば、嫌でも目立ってしまう。そういう場合は、別の対応を優先して考えるしかない。

 そこで重要になってくるのが、「行動を予知させない」ことだ。たとえば、家から駅までの移動経路を2パターン、3パターン持っておく。ルートだけでなく、手段も徒歩と自転車、などと変えてみる。あるいは行動の時間を変える。たまには家を早く出て、職場や学校近くのカフェに寄ってもいいだろう。退勤時も同じように、パターンを複数持って、自在に変えてみる。これだけで、尾行のしにくさは大幅に上がる。

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 ここにさらに、場所と衣服の組み合わせ、マスクやサングラス、場合によっては伊達メガネの装着など、外見的特徴に変化をつけるとずいぶん追いにくくなる。

尾行の撒き方

 それでも「尾行されていそうだ」と思ったら、どうすればいいか。ふたつ、簡単な方法をお教えしよう。ひとつは、公共交通機関(電車やバス)の、扉が閉まるギリギリのタイミングで降りて、乗り換えることだ。ギリギリのタイミングでぱっと電車を降りるあなたを、尾行者があわててついて降りてきたら、それはかなり間抜けな尾行者だ。

©AFLO 写真はイメージ

 もうひとつは、鏡など、後ろを振り返らずに相手の顔を見られるポイントをいくつか持っておくことだ。「変だな」と思ったら、たとえば鏡のあるエレベーターや、鏡面仕上げになっているエスカレーターのガラス窓などで確認するといい。

「不審だな」と思えば、コンビニやホテルなど人のいるところに逃げ込んで警察に相談しよう。「危ない」と思ったら、ひとりで対処しないのが、何事においても重要だ。

 ところで、本庁の公安は、各警察署から選抜されたメンバーが集まる場所なので、実績もプライドも高い。辛い仕事ではあるのだが、自分から辞める人はほとんどいない。プライドの塊みたいな人が多く、一匹狼タイプの人がほとんどだ。同僚同士でもお互いをライバル視しており、非常にピリピリした空気が流れている。

 だからもし、「尾行を撒かれた」というようなことがあれば、かなり屈辱的な場面になる。ごく稀にある職場の飲み会などで、「おい、あの尾行、撒かれたんだってな」などと口に出しようものなら、つかみ合いになることもある。プライドの高い人間の、「あるある」かもしれない。

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