スパイやテロリストの行動を追尾し、不正な情報漏出や破壊活動を防ぐ「外事警察」と呼ばれる警察部門が存在する。中でも、警視庁の公安部外部課はドラマ『VIVANT』(TBS系、2023年7月~9月放映)に登場したことでも注目を集めた。 

 ここでは、警視庁公安部外事課のOBであり、『VIVANT』の公安監修者を務めた勝丸円覚氏が「カウンターインテリジェンス」の世界について明かした『公安外事警察の正体』(中央公論新社)より、一部を抜粋して紹介する。プロが語る尾行の手法と「撒き方」とは――。(全4回の3回目/続きを読む)

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尾行を成功させる3原則

 情報収集や尾行といった話をすると、しばしば聞かれるのが、「どうやって尾行するのか」「どうやって撒くのか」である。

 尾行がいいことに使われるとはあまり思えないが、「情報を集める」、「目立たない」、「行動を予知する」という原則は知っていていいと思う。

 まず、闇雲にターゲットを追いかけようとしても、それは不可能だ。よく使う交通手段は何か? 性格は外向的か、それとも内向的か? どのような場所へ行くことが多いか? これらの情報集めがないと、尾行は難しい。

 たとえば、自転車で尾行する気で用意していても、相手がバイクに乗って移動するのであれば太刀打ちできないだろう。徒歩と電車の組み合わせは都会ではよくあるが、特に電車のような狭い空間ではどう距離をとるかは、難しい問題だ。

©AFLO 写真はイメージ

 次に、「目立たない」。「同じ人だ」と相手にわからないように、変装することなどもあるかもしれないが、目的は目立たないことだ。これ見よがしにサングラスにマスクを着け、帽子を被っていたら怪しいだけだ。たとえば冬場に色の濃いサングラスはミスマッチだし、夏場にウールのハンチング帽も奇妙だろう。相手が行くような場所で、周囲に自然に溶け込める格好は何か、情報収集と並行して服装や動き方を更新していかなければいけない。

 そうしたことを心掛けていると、自然に相手の行動を予知できるようになってくる。今日の格好だと、どうやら比較的落ち着いた、しかしお洒落な街に食事にでも行くようだな、あの人の場合だと神楽坂が多いな、などといったことである。ここまで行けると、少なくとも素人相手だと、尾行は成立しやすくなる。

尾行されたくなかったら…

 尾行されたくない人は、これを逆に考えよう。「情報を収集させない」「目立たない」「行動を予知されない」が原則、ということになる。

 最近はネットでも注意喚起が盛んになってきたが、SNSを頻繁に更新し、特に写真投稿が多い人は、「情報収集してください」と言っているようなものだ。趣味は何か、どこに行きがちか、どの沿線に住んでいるか、断片的な情報でも数が集まれば推測は容易だ。インスタグラムやX(旧ツイッター)でそういった使い方をしている人はただちに実名をやめ、非公開アカウントに切り替えることを推奨したい。