「日本で働く外国人社員には、『地震手当』などの福利厚生費を入れると、課長クラスでも役員級の労務コストがかかっている。うちの社長は外国人から要求されると、英語で直接話して丸呑みしてしまうことが多い。外国人社員らは『内田は俺たちの操り人形だ』とバカにしている」

 ホンダ内部からも「三部敏宏社長と内田社長が話して決めたことが、日産社内ですぐに覆される。渡部氏もサポート役として機能していないように見える」との不満が出ている。

ルノーが内田氏を選んだ理由

 内田氏が社長に選任された経緯には、鴻海の関潤氏との因縁がある。19年9月に西川廣人社長が報酬問題で辞任し、日産の社外取締役を含む6人で構成される指名委員会は次期社長の選定に入った。3人が当時専務の関氏を推し、2人が三菱自動車COOのアシュワニ・グプタ氏、1人は暫定CEOの山内康裕氏を推した。

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「関氏が社長に決まりかけたが、そこにクレームを付けたのがルノー会長のスナール氏。もう一度選び直した結果、氏の推薦でいつの間にか内田氏が選ばれた。ルノーは能力が高い関氏よりも、内田氏の方が操りやすいと見たのではないか」(関係者)。当時、ルノーは43%の大株主。その意向は重いものだった。

 内田氏が19年12月1日付で社長に、前述したように関氏は副COOに就任。関氏が構造改革担当となり、「日産NEXT」を中心となって策定した。

日産社長の内田誠氏 ©時事通信社

 ところが翌日の就任会見では、挨拶の内容をめぐってひと悶着あったという。ある日産OBが明かす。

「関氏や一部の幹部が、『日産は過去を完全に否定して、一から出直す』との主旨の文言を入れるように要求したが、内田氏は『私は過去を否定できない』と拒否したのです」

 そのやり取りを知る別の日産社員は「内田さんで本当に難局を乗り切っていけるのか」と不安を覚えたという。

※本記事の全文(約9000字)は「文藝春秋」2025年3月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(井上久男「日産(鈍感力)社長にいら立つホンダ(暴れ馬)社長」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。
ルノー本社を訪れた男
・なぜ経営不振の日産を
・ホンダ単独では生き残れない
・経産省とみずほに根回し
・安売りしないと売れない
・ホンダ自社株買いの覚悟
・フジテレビの光景と重なる

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