台湾の公共政策プラットフォーム「Join」という好例

安野 かなり高い確率で機能しうると思っています。例えば私が都知事選において展開した、オープンソースの政策プラットフォームでは、わずか17日で課題提起が232件、変更提案が104件寄せられ、建設的な議論を経て、実際マニフェストに72個所のアップデートが反映することができました。

 海外では、台湾の公共政策プラットフォーム「Join」のような優れた成功事例もあります。台湾市民ならだれでも政策提案ができるこのオンラインの場で、5000人以上の賛同が集まったイシューには政府が必ず回答しなければならないことになっています。10年で170個くらいは、政策が一部でも実現しているという成果が出ています。それによって、これまで政治の場に届けにくかった若年層の声が反映されているのです。

安野貴博氏

 つい先日、台湾へ視察に行ってきたのですが、この8年間くらいの台湾のデジタル民主主義は、オードリー・タンさんはじめ、数名のスタープレイヤーが牽引しているとわかって興味深かったです。オンライン上の議論が建設的なものになるようファシリテートし続けている猛者がいるんですね。

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 台湾の政策プラットフォーム「vTaiwan」はより専門性の高い議論の場ですが、オンラインのミーティングや書き込みに対して、ものすごく丁寧にファシリテーターがフォローしている。

――議論を適切に導く、ファシリテーターが重要なわけですね。

安野 逆にいうと、台湾の場合その中心メンバーが力尽きたり、いなくなるとプラットフォームが脆弱になっていくという課題を抱えていました。私は2025年の今ならLLM(大規模言語モデル)があるので、大きな人的コストがかかっていたファシリテーションを、一定の割合AIが行うよう設計することも可能だと考えています。必ずしもスタープレイヤーがいなくても、そうしたプラットフォームを持続可能な形に進化できると思います。

中間層が地盤沈下を起こす時代の課題

――ひとつそれは希望となる見通しですね。少し話がそれますが、そもそも政治的なイシューで非常に荒れやすいのはアイデンティティ・ポリティクスがらみ、つまりLGBTQや夫婦別姓や移民といった問題です。

 おそらく中間層の大半は経済を最優先で立て直し、働いている人が普通に報われる社会こそ望んでいるのに、なぜかいつも政治の争点の中心にアイデンティティ・ポリティクスが持ち込まれ、さまざまな分断が国民のなかで生じている。この状況をどうご覧になっていますか。

安野 まず前提として、長らく経済政策においてないがしろにされた結果、大規模な中間層の没落が生じているという問題は日本特有のものではなく、アメリカ大統領選を現地で見てきたときにも同様のことを実感しました。その反動がトランプ勝利につながったとも言えますが、グローバリゼーションが進むにつれ格差が拡大し、中間層が地盤沈下を起こしている現象は先進国のあちこちで起きていることです。

©AFLO

 私は、「格差をなくそう」ではなく、格差自体は許容しながら、中間層のボトムラインを上げていこうというのが、社会を立て直す現実的な路線だと思っています。世の中の先端にはイーロン・マスクみたいな超富豪もいるけれど、テクノロジーは弱者や中間層を強力にエンパワーするものでもあるので、みんなで経済成長していくのがいい。それは政治の優先的な課題であるべきだと思います。