ミリオンセラーを連発しつつも、その生涯は最後の最後までミステリアス。「謎に包まれた歌姫」とも言われたZARDの坂井泉水さん(享年40)。彼女の曲はなぜ人々の心を掴んだのか? そして今も人々に心に残る存在の大きさとは? 朝日新聞編集委員で、昨年10月に亡くなった小泉信一氏の『スターの臨終』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

2007年に不慮の事故で亡くなった歌手・坂井泉水さん(画像:Amazonより)

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ガン闘病中の病院で転落死

 坂井泉水(本名・蒲池幸子)が入院していた東京都内の大学病院に、私は14年間通っており、2023年には5回入院した。坂井がこの病院に入院していたことは、担当の看護師から聞いたのだったか。亡くなった場所も、それとなく教えてもらった。

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 夜9時、病室の電気を消す。就寝時間である。でも、なかなか眠れるものではない。

 こっそり病室を抜け出し、院内をぶらぶら歩いたこともあった。

 そのときの思いをパソコンに記録していた。

「昨夜もあまり眠れなかった。どうやら自分は孤独や沈黙に弱い人間のようだ」

 気分転換に病棟最上階に行く。エレベーターホールからは高層ビル群の夜景がよく見える。手前に鬱蒼とした森。夜は真っ暗だ。闇と光のコントラストを眺めるのも、東京の夜景の楽しさだろう。

「あの明かりの下で、今夜はどんな人間模様が繰り広げられているのか」

 坂井が亡くなったのは2007年5月27日。翌日の朝日新聞夕刊社会面は「ZARDボーカル・坂井泉水さん転落死 がん闘病中の病院で」という見出しでこう伝えている(具体的な病院名は伏せる)。