ブランドは商品ではない、もはや投資する資産だ

 ハイブランドが資本主義を煮詰めている。まず21世紀に入ってから彼らの商品のインフレがすさまじい。ここ5年(2019-24年)でエルメス、グッチ、シャネル、プラダ、ルイ・ヴィトンの核商品が34-111%も値上がっているという。ブランド名とロゴによる合法ぼったくりの時代にも見えるし、ハイファッションが消費する商品から投資する資産へと変貌しているともいえそうだ。ブランドの商品化から資本化への移行である。

香港のルイ・ヴィトン ©Unsplash

 個々の商品だけではない。企業としての市場価格も膨張中だ。ルイ・ヴィトンを中心とする服飾、宝石、時計、ワインなどのハイブランド複合体LVMH(Moët Hennessy Louis Vuitton)の時価総額がトヨタやソニーをはるかに超えているのは暗示的だ(2024年12月に3150億ドルで50兆円超)。そして、複合化し大型化するLVMHと真逆の流儀を貫き、家族経営と職人仕事の徹底を突き進めるエルメスの時価総額もまた、爆発している(2024年12月に2430億ドルで35兆円超)。

 安く便利で良い物を今ここで与えてくれるだけの企業より、雰囲気や価値観、優越感や高揚感など、いわく言語化・数値化しがたい事を与えてくれる商品と企業の市場価格が高まっているのかもしれない。物は枯渇するが事は枯渇しない。事に基づく資本主義は無限大の新大陸を発見したに等しい。

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寓話:0→4兆円→0

 世にも奇妙な物語に巻き込まれかかった。2018年春ごろ、韓国人の知り合いが仮想通貨を作ろうとしていた。暗号通貨はコンピュータプログラム・コードの塊である。コードやその精神を説明したホワイト・ペーパーを読まされて、議論(というか雑談)相手をしていた。時間がなく怪しげでよくわからなかったこともあり、私自身はその暗号通貨事業に深入りすることなく幽霊部員化。その後数年間は彼と連絡をとることもなくなっていた。

©Unsplash

 次に彼について聞くことになったのは2022年の春ごろだった。驚くべきことに、つい数年前には無だったその暗号通貨は時価総額が4兆円を超える規模になってた。その暗号通貨の多くを所有する彼のチームの資産も数千億円を超えていた。

 しまった、いっちょがみしていれば100億円くらい手に入ったかもしれないと深く後悔していたその数ヶ月後、さらに驚くべきことが起きる。4兆円の時価総額が一週間あまりの間にほぼ完全に崩壊したのだ。投資家に莫大な損失を与えた彼は数え切れない訴訟の対象となり、ついには韓国当局とインターポール(国際刑事警察機構)から国際指名手配される。一年近く逃亡していた彼は、2023年3月モンテネグロの空港から偽造パスポートでドバイへと飛び立とうとしていたところを逮捕される。2024年には米国SEC(証券取引委員会)に対し45億ドル(6000億円以上)の罰金を科されたと報じられている。