子どもたちでも簡単にやれる合言葉は……

 そこで僕たちのチームが行き着いたのが「3本のコンセントを抜きましょう」というメッセージだ。それならば違和感もあるし行動もしやすい。子どもたちも率先してやってくれそうだ。また、そもそもコンセントを抜いておけば、使う時だけコンセントを入れることになるから節電の行動提案としても理にかなっている。

 さらにもう一つ、「1つの部屋に集まって、テレビは省エネモードに」というメッセージも開発。これはもちろんテレビや照明の使用量を減らす目的があるが、家族で集まって心の平穏を保ち、情報を行き渡らせるという狙いもあった。このメッセージをポスターだけでなく、SNSやいろんなメディアで発信していった。

 

 10 日(月曜日)を迎えた時には本当にドキドキしたが、ひとまず停電の危機は回避できた。もちろん工場の皆さんや市民の行動が節電への大きな力になったのだと思うが、メッセージやポスターがほんの少しでも役に立ったのならプロとして誇りを持てる仕事をしたと思う。

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街づくりも美術館の環境もアイデア次第!

「Legible London」というロンドンの事例が素晴らしいので紹介しよう。それはグラフィックデザイナーの色部義昭さんから聞いたロンドンの乗り換え地図のデザインで、駅を起点とした地図に「5minute walk」の円弧を描いたことで、「5分なら歩こうかな?」という行動を誘発。市民の健康も促進し、近隣のお店の発展を促したと言われているアイデアだ。たった一つの円で「やりたい」「やれる」「やろう」を生み出した奇跡的な事例だと思う。

 ある美術館から相談を受けた際も「行動提案」をしたことがある。依頼は、展示室内の椅子に座り大声で話す人が多いため、サイドテーブルの小さな置物に言葉を書いて注意を促したいというもの。かなり難易度の高い課題だった。ストレートに書くなら「大声での会話はお控えください」や「会話禁止」だが、僕が提案したのは「お話は、耳元で。」という行動提案型のコピー。耳慣れない言葉だから気になるし、耳元で話せば自然と大声は出せない。しかも親密になれそうだからちょっとやってみたくなる。我ながら良い提案だったと思う。

 行動化のポイントは「禁止」「命令」「説明」ではなく、「やってみたい!」を考えること。そのためには、ゲームのように楽しく、子どもたちでも行動できるくらい簡単にすべし、である。

『すごい思考ツール』(小西利行 著)
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