宮本輝氏初の歴史大河小説『潮音』の刊行が1月から始まった。小説の主要な舞台となる富山市で1月25日に開かれた、北日本新聞社主催のトークライブのダイジェストをお送りする。
(聞き手=武藤旬・文藝春秋第一文藝部長)(全2回の1回目/続きを読む)
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時代小説と歴史小説はどう違うか
――『潮音』は宮本さんにとって初めての歴史小説になります。初挑戦ということで、ご苦労がおありになったと思うのですが、その辺からお話しいただけますでしょうか。
宮本 足かけ十年「文學界」に連載したわけやからね。その間の苦労をぜんぶ喋っていたら一晩かかっても終わりませんよ(笑)。
まあ、歴史小説と聞いてすぐに頭に浮かぶのが、司馬遼太郎さんでしょうね。いっぽうで、出てる本の数から言ったら時代小説の方がずっと多いでしょう。じゃあ、時代小説と歴史小説はどう違うんだ? ってところからわからなかったんで、考えてみたんです。時代小説っていうのは架空の人物が動くんです。で、歴史小説というのは、歴史上に登場した実在の人物を主人公にして書くんだと。そこが決定的な違いじゃないかとわかったんです。そしたら自分には「歴史小説というのは書けないなあ」と思ったんですよ。
というのはね、その実在の人物がこの世に生まれてから亡くなるまで、いろんな出来事があるでしょう。けども、その人に一度も会ったことがない僕がね、その人がどんな冗談を言うのか、どんなものを食べていたのか、男ならどんな女の趣味だったのかとか……何もわからないんです。そこを想像で書いてしまうと、僕の書くことは「ぜんぶ嘘だ」ということになるんです。だから歴史小説は「俺には無理だ」と、もう頭から決めてたんです。