証言することが子どもに与える負担と影響

 被害の日時や場所、状況など、聴取によって引き出された内容が具体的であればあるほど、検察は証言に信ぴょう性があると判断します。しかし、成長や発達の段階によっては、子どもがそんな証言をするのは困難です。「週に2回か3回か……5回あった」「なんか暗いところだった」という証言は、具体性に欠けるとみなされます。特に家庭内の性的虐待は、日常的に行われるのが特徴です。一回一回の被害について「いつ、どこで、どんなふうに」されたかを話すのは、実質不可能でしょう。被害に遭うたびに解離が起き、記憶が飛んでしまうケースはめずらしくないため、証言はますますあいまいになります。

『小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害』(集英社インターナショナル)

 被害の詳細を語るのは誰にとってもつらい体験で、それ自体が大きな負担となるものです。小児性暴力について刑事裁判所で証言することで生じる影響を、218人の児童を対象に調査した結果、しばしば大きな精神的苦痛を経験することがわかりました*7。幼少期に法廷で証言するケース、なかでも特に重度の虐待を伴うケースでは、その後の人生で精神衛生上の結果が悪くなることが予測されます。

 証言を待つあいだや証言中に子どもたちが示した感情的な反応は、接する大人たちがいかに子どもの精神状態や法制度に理解があるかによって大きく変化するという研究結果もあります*8

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 被害を受けたことに対し、周囲から心ない言葉を浴びせられることを二次被害といいますが、聴取でこれに近い状況が生じることもあります。そうでなくとも、聴取の最中も、聴取が終わった後も、フラッシュバックがいつ起きるかわからないという、被害者にとってたいへん危険な状態がつづきます。

 子どもの場合、その負担が特に大きくなることは想像にかたくないでしょう。通常の犯罪でも、被害者の聴取は何度もくり返されます。子どもであれば、質問のされ方によって出てくる答えが変わることもあります。誘導的な質問をされたら大人の期待に応えようとしますし、圧迫的な質問をされたら本当は違っても怖さのあまり「はい」とうなずくかもしれません。複数の人が入れ替わり立ち替わりやってきて質問するのも、子どもが混乱し、証言に一貫性がなくなる一因です。