子どもの性被害はなぜ不起訴に終わることが多いのか? 『みんなで守る子ども性被害』より一部抜粋し、その理由と子どもたちを守る方法を考える。(全2回の前編/続きを読む)
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物的証拠の少なさが起訴への高いハードルに
日本でもCAC(小児性暴力のケア・支援のための施設「チャイルドアドボカシーセンター(CAC:Children’s Advocacy Center)」)が増え、誰にとっても身近な機関にしていかなければならないと特に感じるのは、「司法面接」について考えるときです。
司法面接とは、性被害や虐待に遭った子どもの、未熟さや脆弱さに配慮しながら行われる聴取のことです。聴取あるいは事情聴取は、取り調べといわれることもありますが、警察官や検察官が、事件の被害者、犯罪を行ったのではないかと疑われている被疑者、そのほか事件について何かしらを知る参考人といわれる人たちに、供述を求めることです。聴取や捜査を経て、検察官が「被疑者に犯罪の疑いがある」と判断した場合には起訴し、裁判が開かれます。日本では「起訴された場合は99・9%が有罪になる」というのは有名な話です。これは裏を返せば、それほど有罪への確信がないと、検察は起訴しないということです。
子どもの性被害は、不起訴に終わることが多いです。なぜかというと、それは「被害者が子どもだから」です。
性暴力は、物的な証拠がとても少ない点が起訴への高いハードルとなっています。被害後すぐにワンストップセンターや救急外来にアクセスし、レイプキットを使って採取したものから、加害者の体液やレイプドラッグなどが検出できていれば、それは決定的な証拠になります。加害者が犯行の様子を写真や動画に残している場合も、重要な証拠として扱われます。しかし、大多数の性暴力には物的証拠がありません。被害後に身体を洗えば、加害者の体液も流れます。血中や毛髪に残っていたレイプドラッグも、時間が経てば体外に排出されます。早いものでは数時間で検出されなくなります*6。
子どもにとってトラウマ体験となりうる司法面接
証拠不十分では、検察は起訴できません。前述のとおり、有罪がほぼ確定している事件以外は不起訴にします。性犯罪の多くは、実質的な「密室」で行われます。ほとんどの場合、目撃者もいないため、状況証拠や証言のみを頼りに立証していかなければならないのです。
子どもが被害に遭い、加害者を罪に問おうとしたとき、最大の難関となるのが、この証言です。子どもが性被害を受けると、児相、警察、医療、検察、弁護士などからさまざまな質問をされます。ここで何が問題かというと、いま挙げた各分野の大人たちが、被害を受けた子どもに別々にアプローチする点です。子どもは被害のトラウマに苛まれながら、知らない場所、安心できない空間で、初対面の大人に囲まれて、被害について何度も話さなければならない。これ自体がトラウマ体験となりえます。子どもが平気でいられるわけがないです。