ヨーロッパでの反応は?
もともと、ATACMSの使用許可をめぐる話の中で、プーチンはNATO諸国に対してある警告をしていました。それは、西側の武器を使ったロシア攻撃を認めれば、ロシアはNATO諸国が戦争に「直接参加」したとみなすという警告ですね。その場合、ロシアはアメリカに軍事的報復をすることはできないが、ヨーロッパの国々に攻撃をしないとは保証できないし、そしてロシアがヨーロッパの国々を攻撃した際に、アメリカの助けが入るとは限らないと。実際、ロシアがヨーロッパ全土に攻撃をすることは可能です。
ロシアによるこのような脅しは、冷戦末期である80年代にもありました。当時はヨーロッパの国々に対して、アメリカがワシントンやニューヨークを危険にさらしてまで、パリやボンを守ってくれるのかと言われた。その再燃を狙っている感じがしますね。とはいえ、ヨーロッパでは今回オレシュニクに対してスルーモードではあります。それはオレシュニクのことを「やばい」「怖い」などと言い出すと、プーチンの思いのままというか、脅しの効果が出てしまうので、極力オレシュニクには触れないようにしているという感じがします。
――今後の和平について、お聞きします。ロシアは和平協議開始の条件として、ロシアが一方的に併合したウクライナの領土から、ウクライナ軍を撤退させることを掲げていますが、これについて長谷川さんはどう思われますか。
長谷川 プーチンは正直なところ、ウクライナがこの条件を飲むだけでは、納得しない感じもします。今後のウクライナの軍装備などについても、国家の主権に関わる細かな要求を次々と突き付けるのではないかと思います。プーチンも4時間半という長丁場の会見をこなしたように、まだまだタフではあるでしょうし。
小泉 プーチンは昨年10月で72歳を迎えましたが、その年齢で4時間半の会見をやりきったのはやはりすごいですね。その発言を見ても、政治的にまっとうなことを言っているかはさておき、政権末期のバイデンが、受け答えもなんだか怪しかったことを振り返ると、プーチンは相対的に元気に見えちゃいますね。
(この対談は1月15、16日に配信された「文藝春秋PLUS」オリジナル動画をテキスト化したものです)
※この対談のノーカット版(16000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています。
■ウクライナ戦争開戦から3年 小泉悠氏・長谷川雄之氏対談
・第1回 ウクライナ戦争の3年を総括する…なぜ戦況は「膠着状態」なのか?
・第2回 ロシアは「北朝鮮抜き」でこの戦争ができなくなった
・第3回 トランプ米大統領は、ウクライナ戦争を本当に止められるのか?
