2月24日で開戦から丸3年が経過したウクライナ戦争。2月12日にはアメリカのトランプ大統領が、ロシアのプーチン大統領と停戦に向けた協議開始に合意し、新たな動きが見え始めている。
東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉悠氏と、防衛省防衛研究所主任研究官の長谷川雄之氏の対談から、ロシア軍が使用した新型兵器・オレシュニクやプーチン大統領のタフさについて語られた一部を紹介します。
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新兵器「オレシュニク」の実態
――プーチンが恒例の年末会見(12月19日)を4時間半にわたって行いました。会見では、新しい中距離弾道ミサイル(IRBM)「オレシュニク」の使用についても触れられました。プーチン曰く、音速の10倍で飛ぶ極超音速兵器です。撃墜できないと言われていますが、その会見をどう受け止められましたか。
小泉 オレシュニクの話で言うと、これがIRBMであるとすれば音速の10倍はちょっと遅いですね。この速度の言及にもブレがあって、プーチンは10倍から11倍、ウクライナの参謀本部は12倍と言っていたりもするんですが、12倍と見積もっても、せいぜい準中距離弾道ミサイル(MRBM)です。
今回はカプースチン・ヤールという、ロシア南部にあるミサイルの開発基地から、ウクライナの比較的東部にあるドニプロに向けて撃ったのですが、距離としては800キロくらいで、IRBMを使うにはそもそも近すぎる。MRBMを撃ったと言われれば納得できなくはないですが、いずれにせよ、そんなにびっくりするような新兵器には見えないです。よほど変な軌道をとらない限りは迎撃も不可能ではないでしょう。
私の考えでは、オレシュニクとは新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)かなと思います。固体燃料を使ったICBMは3段での構成になるのですが、恐らくは3段目のところを取っ払って、1段目と2段目のブースターの上に直接弾頭を乗っけるような設計のミサイルではないかと思います。新しい面があるとすればそこになります。この場合、本来核弾頭が積めるはずなのですが、通常弾頭を積んでいた。このクラスのミサイルに通常弾頭を積むのは結構珍しいんです。というのは、通常弾頭を積む場合は、かなり高い命中性を担保しなければならないので。その使用意図としては、私は現時点では政治的な脅し以上のものではないと思います。
ロシアがオレシュニクを撃ったのが、昨年11月21日ですよね。あれはバイデン政権がウクライナに対してATACMS(アメリカ製の長距離ミサイル)の使用許可を出し、実際に撃った2日後なんですよ。アメリカへの意識はあるでしょう。