「俺は地球の上にいま、立っておるんや」

 それからもう一つ、とても印象に残っているやり取りがあります。

 僕は大学生のときにサーフィンが好きで、伊勢の海の方によく波乗りに行っていたんです。サーフィンは一人でできるスポーツやし、波の上に立った時の「俺は地球の上にいま、立っておるんや」という感覚が好きやったから。

 その話を谷川さんにしたら、「大﨑さん、どうしてその時に詩を書かなかったの?」と聞かれてね。

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谷川俊太郎氏(左)と大﨑洋氏(大﨑氏提供)

 僕はそのとき「いやいや、僕にはそんな才能ないですよ」と笑って返したんやけど、いまになっても妙にその言葉が胸に残ってるんですよ。「あのとき、ほんまに詩を書いてみたらよかったんかな」って。いまからでも遅ないんちゃうかなぁ、なんてちょっと考えてみたり……(笑)。

 そんなとき、自分にとって谷川さんとお話ができた時間は、めちゃくちゃ大切なものだったんや、とあらためて思うんです。自由、とか、素直さ、みたいなもんについて、もう一回、考えさせられた気がするからやね。

大﨑洋氏の本記事全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています。
全文では、大﨑氏が貸本屋の留守番を任されていた幼少期、大﨑氏が「東京はすごい」と感じた本、大﨑氏が吉本興業に就職した時期のエピソードなどについても語られています。

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