直木賞を切望する作家を描いた村山由佳さんの最新作『PRIZE—プライズ—』。出版界の裏側を赤裸々に綴った内容が、作家仲間から心配されたという。
ここでは月刊誌「文藝春秋」2025年3月号掲載のインタビュー「『賞が欲しい』作家心理をさらけ出した」を一部抜粋して紹介する。
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「あんなに裏側を書いて大丈夫ですか?」
厳しい母親の顔色をうかがいながら育ったせいか、「どうすれば怒られないか」「相手の機嫌を損ねないか」を推し量りながら、その場の正解を演じるのがすごく得意なんです。そのぶん自分に自信がなく、「褒められたがり」でもある。
そうした承認欲求のうち、なかでもいちばん人に隠してきたものって何だったろうかと思い起こすと、私にとってそれは「賞が欲しい」でした。だって、「村山さんって身の程知らずだね、賞になんか届くわけないのに」なんて業界の人に思われたら、絶対に嫌じゃないですか。
連載が(直木賞の発表媒体である)「オール讀物」でしたから、「直木賞がどうしても欲しい」と切望する女性作家を主人公に据えることにしました。せっかく文春の媒体で書くんだから「直本賞」とか「直卉賞」にするんじゃなくてずばり「直木賞」でいこう、「オール讀物」もそのまま出そう、と決めました。
おかげさまで連載第1回から大きな反響があって、賞の選考会やパーティで同業者に会うと、「どこまで書くんですか?」「あんなに裏側を書いて大丈夫ですか?」なんて、次々に感想を言ってくれる(笑)。毎月「オール」が郵便受けに届くのを待ちかねて読んでると言ってくださる方もいて、リアルタイムな反応がとても励みになりました。
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『プライズ』の主人公は、軽井沢在住、48歳の作家・天羽(あもう)カイン。ライトノベルの新人賞でデビューし、たちまちベストセラー作家になるが、なぜか文学賞に届かない。「どうして自分は文壇から評価されないのか」と怒りの炎を燃やしつつ、若い女性編集者とタッグを組んで直木賞を目指して疾走する。
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