「こういう軽いものを書いてると文学賞はとれないよ」

 連載第1回の締めに、カインの心の叫びとして「──直木賞が欲しい。/他のどの賞でもなく、直木が。」と書いたんですが、これはかつて私が抱いた感情にほかなりません。

『PRIZE—プライズ—』(文藝春秋)

 私自身の話をしますと、小説すばる新人賞をいただいたデビュー作『天使の卵』が売れて、同時期に出した『おいしいコーヒーのいれ方』も四半世紀続くシリーズに育ってくれた。作家として順調なスタートが切れたのですが、いっぽうで「村山由佳ってちょっと切ない青春小説の書き手」とレッテルを貼られて、業界の中にも「こういう軽いものを書いてると文学賞はとれないよ」と、耳打ちしてくる人がいました。

 本は売れていたし、サイン会をすると、ありがたいことに多くの読者が並んでくれて、「村山さんの小説で初めて本を読みました」なんて言ってもらえる。

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 たいへん幸せなことだったんですけれど、どんどん後輩たちがデビューして、同期の中には賞を獲る人も出てきて。そんな姿を見ているうちに、正直、もっと違う評価が欲しくなっていきました。

軽井沢在住の村山由佳さんは、壮大な自然の下で愛する猫たちと暮らしている ©文藝春秋

 実際、肚を据えて取り組んだ書き下ろし長編には、手応えのある作品もあったのに、デビューから9年間は、何を書いても候補にもならず、賞には届きませんでした。

〈全部教えて。何が足りてないか、どこがまずいのか、遠慮なんかしないで言って。〉

 これも『プライズ』で天羽カインに言わせた台詞ですが、まさに当時の私の本音ですね。

※本記事の全文(約6000字)は「文藝春秋」2025年3月号と「文藝春秋PLUS」に掲載されています(村山由佳「賞が欲しい」作家心理をさらけ出した)。村山さんが登場するグラビア「日本の顔」も合わせてご覧いただけます。

PRIZE―プライズ―

村山 由佳

文藝春秋

2025年1月8日 発売