「文藝春秋」3月号より、独特の告白体と擬音語を多用したポルノ小説で一世を風靡した作家・宇能鴻一郎氏(87)のインタビューを一部公開します。
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原稿料が日本一高かった小説家
なぜいま僕の本が売れているのか、その理由は全然わかりません。新潮社の編集者から突然、「この作品とあの作品を集めて、文庫で出版したい」と申し出があったのです。結果的に「よく売れています」と喜んでいらっしゃいました。
意外なことに読者は女性が多いそうで、先日もファンレターが届き、不思議に思っているところです。女性からのファンレターって僕には珍しい。かつて書いていたポルノ小説の読者ではなく、この本で初めて僕の小説に触れた方が多いようです。
この本に入っているのは重い文章の小説ばかりなのに、売れると思わなかった。どうして女性が読んでくれるのか、不思議だなあ。
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伝説の作家が、再び脚光を浴びている。
昨年8月に発売された『姫君を喰う話 宇能鴻一郎傑作短編集』(新潮文庫)は発売後すぐさま増刷が決まった。同書は、第46回芥川賞を受賞した「鯨神」をはじめ、ポルノ小説に転じる前の1961年から70年に書かれた6本の短編が収められている。
昭和40年代から平成にかけて、駅売りのスポーツ紙や夕刊紙に、宇能氏の連載小説は欠かせなかった。多い時期には毎月原稿用紙で1000枚を超え、原稿料は日本一高かったという。日活がロマンポルノとして映画化するに当たり、『宇能鴻一郎の濡れて立つ』『宇能鴻一郎のむちむちぷりん』と、名を冠したことからも往時の人気ぶりがうかがえる。
文壇での交際を好まず、メディアに出る機会はほとんどなかった伝説の作家。コラムニストの山本夏彦さんは「名のみ高く、その姿を見たものがない唯一の文士である」(『週刊新潮』92年1月2、9日号)と評している。
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女性の1人語りに辿り着いた
ポルノ小説の読者は、圧倒的に中年の男性です。数年前、飛行機の中で知り合った人に、「若い頃、お世話になりました」と頭を下げられたことがありました(笑)。
ポルノ小説を書き始めた当初は、「〇〇でございます」でした。ところが書いているうちに、だんだんくたびれてきて……。純文学出身ということもあって僕の文章は硬質で、どうしても難しくなってしまう。そこで読みやすくしようと心掛けているうちに「あたし、〇〇なんです」に辿り着いた。自然とあの文体になったわけです。