「個人的関係」の構築が目的?
5月中旬、在京外交筋から聞いたホワイトハウス情報によると、米朝首脳会談の目的は「個人的関係の構築」だという。
5月25日以後、議題設定などを協議する板門店、会談場の設定を協議するシンガポール、さらにニューヨークとワシントンでの準首脳級会談、と3カ所で米朝両国は議論を重ねた。
板門店での会談でようやく初めて、国務省の北朝鮮専門家が交渉に加わった。元北朝鮮担当特別代表のソン・キム現駐フィリピン大使が率いる米政府代表団が、北朝鮮代表団の崔善姫(チェソンヒ)外務次官らとの実務協議で、共同声明または共同宣言などの文書作成にも取り組んだと伝えられる。
過去の政権なら、大統領は国務省、国防総省、CIAなど関係省庁に報告を出させて、首脳会談に臨む方針を決め、大統領のトーキング・ポイント(発言の要点)をまとめるのが通例だ。しかし、外交の初歩もわきまえない大統領のせいで、そうした態勢整備は遅れ、実質的な予備交渉も大幅に遅れた。
このままだと交渉は北朝鮮のペース。「非核化」は言葉だけで、検証措置も含めた中身は二の次にされる可能性もある。
安倍首相は対北朝鮮援助を迫られた?
6月1日、金正恩氏の側近、金英哲氏をホワイトハウスに招いて開いた会談にボルトン補佐官を出席させなかった。NSCの開催はボルトン氏の責任。今後、NSC運営方法をめぐって内部対立が深刻化する可能性もある。
会談した後、記者団の前に姿を現したトランプ大統領。最初に、首脳会談について「あなたと知り合う、というタイプの会談だな」と言った。つまり筆者が5月中旬に聞いた「個人的関係を構築する会談」という意味だ。会談への期待値を下げようとする意図がうかがえる。
会談は2度か3度やる可能性もあり、「最終的には成功するプロセスだ」と言った。明らかに、事前の協議は進展していないようだ。
この会見でトランプ大統領は、事前に日本、韓国と事前協議のないまま放言したとみられることが少なくとも2点ある。
第1に、「最大限の圧力という言葉は使いたくない」という発言。
第2に、「対北朝鮮経済援助は日本、韓国、中国がやる」と言明したことだ。
米朝首脳会談の5日前、6月7日にワシントンでトランプ大統領と会談した安倍首相は平壌宣言(2002年)に基づき、日本は「経済協力を行う用意がある」と約束した。日本はこれまで、「拉致問題の最終的な解決に向けた北朝鮮側の具体的な行動なしに」は日朝関係を前進させない、との立場をとっていた。「拉致問題解決」という前提条件なしの経済協力を発言したことは論議を呼ぶ可能性がある。
安倍首相はトランプ大統領に対北朝鮮援助を迫られたのだろうか。非核化の前進を図るため、日本にもツケを回すトランプ政権の強引な手法に押し切られたのかもしれない。