香港からは新人女優の活躍作と史上最高ヒットのディレクターズカット版

 【ラスト・ソング・フォー・ユー】

夏の日、音楽を通して出会ったふたりの恋は永遠に続くと信じていた。しかし、別々の人生を歩み偶然再会した彼らには過酷な運命が待っていた。イーキン・チェンの若い頃をMIRRORのイアン・チャンが好演。高知ロケの美しい映像も見所。

リム この映画は今、香港でも話題になっていますね。香港アカデミー賞で7部門にノミネートされ、香港の知人も皆驚いていました。特にナタリー・スーの主演女優賞ノミネートには意外性があったようです。

暉峻 ナタリー・スーについては、僕もあまり詳しくなかったのですが、彼女は本当に素晴らしかったですね。イーキン・チェンはノミネートされなかったんですか?

リム はい、ノミネートはされませんでした。

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暉峻 それは残念ですね(笑)。でも、この映画は間違いなく女優の魅力を引き出した作品です。

©大阪アジアン映画祭

リム もう1本の香港映画『私たちの話し方』(24年)に出演しているジョン・シュッインも良かったですね。去年台湾金馬奨で最優秀女優賞を受賞しました。彼女の主演映画は、これまで全て大阪アジアン映画祭で上映されていますよね。

暉峻 ええ。彼女は本当に素晴らしい女優で、大阪の観客にもすっかり馴染みがありますね。

 【私たちの話し方】

聴覚障がいをもつ3人の若者。友情に支えられながら、それぞれの道を見出していこうとするが……。手話による会話を軽快なリズムで映し出し、障がいを持つ若者たちのエネルギー溢れる青春を描く感動作。

リム 香港映画ファンが今年特に興奮したのは、やはり『ラスト・ダンス〈ディレクターズカット版〉』(25年)の世界初上映でしょう。

暉峻 聞いた話によると、監督は当初の構想通りに編集すると非常に長い映画になってしまい、どこを削るかを何度も悩みながら何十回も編集し直したそうです。結果的に、香港映画史上最高の興行収入を記録する作品となりました。そして、おそらく監督へのご褒美のような形で、ディレクターズカット版を制作する機会が与えられたのでしょうね。

 ディレクターズカット版は、一瞬たりとも退屈する暇のない、緊張感の連続する作品になっています。そんな作品のワールドプレミアを大阪で迎えられるのは、本当に嬉しいですね。

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【ラスト・ダンス
〈ディレクターズカット版〉】

パンデミックにより、葬儀社に転職したダオシェン。当初は指南役のマンと衝突するが、彼と仕事をするうちに人生観に変化が生まれていく。マイケル・ホイとダヨ・ウォンは32年ぶりの共演。昨年東京国際映画祭で上映された通常版は126分、ディレクターズカット版は139分。 

暉峻創三 てるおか・そうぞう 1961年生まれ。映画評論家。2002年東京国際映画祭「アジアの風」部門の選定プロデューサー。09年より大阪アジアン映画祭のプログラミング・ディレクターを務める。

リム・カーワイ 1973年マレーシア生まれ。映画監督。大阪を拠点とする。「週刊文春CINEMA」で「香港からの手紙」を連載中。