創業家によるMBOを問う臨時株主総会が開かれた
オーナー一族主導の下、MBOに踏み切った大正製薬HD。2024年3月18日、東京・豊島区にある大正製薬の本社ホールで開かれたMBOの賛否を問う臨時株主総会は、社員、警備員が多数見守る物々しい雰囲気に包まれていた。だが、現地参加の株主はわずか十数人にとどまり、半ば肩透かしの内容だった。
MBOは2023年11月から2024年1月にかけて、茂が代表を務める大手門株式会社がTOB(株式公開買い付け)を実施し、買い付け予定数の下限を上回る応募を得てTOBは成立した。上原家は、従来の保有分(約4割)と合わせて約73%の株式を取得し、残る少数株主保有分を強制的に買い取るスクイーズアウトを行い、株式を非上場化することが計画されていた。
総会では、まずMBOの経緯や目的に関する動画が上映され、株式上場に必要な費用が増加していることや、非上場化により、機動的な意思決定を柔軟かつ迅速に実践できるなどのメリットがアピールされた。次いで、事前質問の一部に対しての見解が示された後、質疑応答に入った。
関係者によると、延べ8人の株主からMBOの正当性などに関する質問が相次いだとされる。質問は、TOB価格の決定プロセスに集中した。
TOB価格は1株8620円に設定された。表面的には直近の株価に50%超のプレミアムが上乗せされた水準で好条件に見えるものの「解散価値を示すPBR(株価純資産倍率)1倍との比較で、約15%も割安に設定されていた」(市場関係者)とされる。大正製薬HDが解散して、残余財産の配分を受けた方が株主にとっては得となる、PBR0.85倍という低い株価での買い取りというわけだ。
このため大正製薬HDの株式を保有していた米投資ファンド、キュリRMBキャピタルは「TOB適正価格は少なくとも2023年9月末のBPS(1株当たりの純資産)約1万132円以上であるべきだ」と主張。同じく大正製薬HD株を保有する香港のヘッジファンド、オアシス・マネジメントなど複数のアクティビスト(物言う株主)もTOB価格は安過ぎたと不満を表明していた。マネックスグループ傘下のカタリスト投資顧問も「TOB価格は少数株主を軽視した判断だ」と批判していた。投資ファンドの中には法的手段に訴えることを検討する株主も出たほどだった。
臨時株主総会でも質疑応答でTOB価格への批判の声が挙がったが、開会から30分ほどが経過したところで議長が打ち切りを宣言。残り数名の質疑を経て、閉幕した。関係者によると、MBOを主導した明社長は最後まで発言することはなかったという。
※本記事の全文(約10000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(森岡英樹「創業家サバイバル 華麗なる一族のMBO――大正製薬非上場化と『住友の法皇』の血脈」)。
■全文では、下記の内容についてもお読みいただけます。
・投資家の納得を得られなかった大正製薬HDの説明
・モットーは「飲まず吸わず遊ばず」
・ラグビー支援と宿澤広朗との出会い
・史上最高額のMBOを巡るメガバンクのつばぜり合い

