『サラリーマン球団社長』はナベツネ支配や球団危機に抗った熱い実話だが、一方では、ジリ貧の名門球団を再生させた子会社経営者と野球人の友情の物語でもある。(文中敬称略)
阪神電鉄の旅行マンだった野崎勝義が申し渡された出向人事の先には、ワンマンオーナーが君臨し、欠陥を抱えるフロントや頑迷なスカウトたちが待ち構えていた。(前中後編の中編/前編から読む)
あきらめたらあかん
それも負け犬根性や
タイガースは他球団とたびたび新人選手や外国人選手の獲得を争っては、負けてきた。スカウトが「うちはカネがないから、巨人さんなんかとは勝負になりまへんわ」と言い訳することも多かった。ここでも負け犬根性が顔をのぞかせている、と野崎は思った。星野仙一を2002年シーズンに監督に迎えるまで大きな補強ができなかったのも、こうした事情のためである。
言い続けなあかん。あきらめたらあかん
タイガースのチケット販売に、新システムを導入しようとして、野崎は障壁に阻まれる。
許せんのは、阪神巨人戦のようなプラチナチケットを自分が差配することで、ごっつい恩を売っている者がいることや。 だから、野崎は「ええと思うたらトコトン言わんとモノにはできへんよ」と部下を励ました。電鉄本社にも「内務官僚」と揶揄される役人型の幹部がいる。前例を踏襲し、上層部のご機嫌を伺うヒラメ型の人々だ。野崎はこうも言った。
「しぶとく言い続けな実現はせんよ。言い続けなあかん。あきらめたらあかん」。会社ではいつも強い人間ではいられない。あきらめたらあかん、という言葉は自分に言い聞かせる言葉でもあったのだろう。