科学的な「幽体離脱」も可能に
歴本 次に、同じ部屋の別のボディに移りたいとします。そのためにいったんボディからジャックアウト、つまり抜け出て、部屋全体を俯瞰的に見わたす、三人称視点に移ります。このときゴーストが見るのは、マイクロソフト社製キネクトを複数台用いて作りだした、部屋全体の三次元CGです。CGなので、自由自在に視点を移して、環境を見ることができます。[JackIn Space: Supporting the Seamless Transition Between First and Third Person View for Effective Telepresence Collaborations Rekimoto Lab](https://lab.rekimoto.org/projects/jackinspace/)
上田 幽体離脱ですね。一人称視点と別の一人称視点の間に、三人称視点を挟むと、どこからどこへ移ったかがわかりやすいですね。
暦本 このシステムを、たとえばスポーツのトレーニングに応用できないかと考えています。ある時は自分がプロ選手になりきって学んだり、あるいはコーチが選手になりきって指導したり、さらには練習している自分をまさに幽体離脱して外から見たり、といった使い方です。このように技術的には自己と他者の切り替えができるようになってきています。移人称の話と非常にシンクロしていますね。
世界を別の切り口から見せる
上田 ジャックイン・スペースの動画を見ていると、小説を書いているときととても近い感覚を覚えますね。
暦本 テレビゲームをプレイしているときの感覚にも似ているかもしれませんね。われわれとしては、全く絵空事の世界よりも、今自分がいるリアルな世界を、別の切り口から見せたいと考えています。
上田 この技術が進んでいくと、あるときはプロのバスケットボールプレイヤーとしてドリブルをし、あるときは外科医として手術をするようなことが可能になりますね。
暦本 勉強の仕方も、教科書をただ読むだけではなくて、登場人物の一人になってみるとか、あるいは歌手になりきるなど、教育やエンターテインメントもどんどん変わっていくと思います。それにともなって体験の価値も変わっていくのではないか。カメラのない時代の人々は、たとえばチベットといえば旅行者の話を聞いて、その光景を想像するしかありませんでした。しかし今では写真もあればビデオもある。4Kの高精細画像で見ることもできる。そうなると昔に比べてチベットの光景の神秘性はどうしても失われてしまいます。現代の人々にとって稀少性があるのは、チベットで何をしたかという体験の部分です。そういう価値は時代によって変わります。
上田 遠隔手術の技術には、グローブで触覚を伝えるものもありますよね。視覚、聴覚、運動だけでなく、体感も出力できるようになるんでしょうね。