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「レディー・ガガを乗りこなす」AI×ARの“幽体離脱”時代とは何か?

上田岳弘×暦本純一「AIとAR時代の文学」(後編)

note

明日、レディー・ガガにジャックイン!?

暦本 体感のフィードバックも加えると、さらに臨場感が高まります。でも、明日一日レディー・ガガにジャックインできますと言われて、実際に彼女のペルソナをまとったとしても、最初の30分くらい興奮して楽しんだとしても、だんだん辛くなってくるんじゃないでしょうか。

上田 彼女のレディー・ガガ性がきついかもしれません。レディー・ガガ性を担保するのは、彼女を取りまく人々とのコミュニケーション、これまでの彼女の判断の集積ですから。

暦本 自分にはレディー・ガガ性がないのに環境だけレディー・ガガになっても生きていけない。

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上田 あるいは彼女にジャックインするときにレディー・ガガ性を組みこんだ判断セットまで与えてくれるとか。

レディー・ガガ ©getty

暦本 面白いですね。レディー・ガガ的な頭の働き方までできるように助けてくれる判断セットですね。

上田 おそらくそういう判断セットまで人間は開発するんでしょうね。

自己と他者の境目がなくなった世界で

暦本 環境が変わったり、ペルソナが変わったりすると、精神が変わることもありますね。レディー・ガガはきついなと思っても、しばらく彼女の身をまとっているうちにレディー・ガガを乗りこなす人も出てくるかもしれません。VR空間で、友人と話したり、ゲームをしたり、イベントを開いたりできる「VRチャット」というサービスがあるんですが、おじさんが女の子のペルソナをまとうこともできるわけです。VR空間で、その人の外見は女の子なので、周囲の人は女の子と思って話しかけてくる。そうするとだんだん女の子らしい振る舞いとか、話し方をするようになってだんだんしとやかになる。外見の変化に精神もある程度引っ張られる。

©iStock.com

上田 なるほど。ただし外見に100%支配されるわけでもないですね。外見に精神が侵食されていったとき、最後に残るもの。それが「自分」なのかなと思います。精神だけでなく、肉体の融合も進んで、体験を共有できるようになると、自分の妄想と現実の区別が付かなくなりそうですね。自分の願いがすべて叶う、言い換えると、神になったような感覚を受けるのではないか。

暦本 自分に何ができて、何ができないか、混沌としてくるでしょうね。上田さんがお書きになっている肉の海のように、個が消えて、全体がスープになったとき、メンタリティーがどう変わるのか、想像も付かないですね。

構成=緑慎也

文學界2018年7月号

文藝春秋
2018年6月7日 発売

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うえだ・たかひろ/1979年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒業。2013年「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞しデビュー。2015年「私の恋人」で三島由紀夫賞を受賞。2016年「GRANTA」誌のBest of Young Japanese Novelistsに選出。著書に『太陽・惑星』『私の恋人』『異郷の友人』『塔と重力』がある。

れきもと・じゅんいち/1961年東京都生まれ。理学博士。東京工業大学大学院理工学研究科情報科学科修士課程修了。日本電気、カナダ・アルバータ大学などを経て、現在、東京大学大学院情報学環教授兼ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長。

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