文春オンライン

「レディー・ガガを乗りこなす」AI×ARの“幽体離脱”時代とは何か?

上田岳弘×暦本純一「AIとAR時代の文学」(後編)

人に「ジャックイン」する

暦本 さきほど挙げたウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』でも、電脳空間を介して、人間が他の人間や人工物に接続する「ジャックイン」が、物語上、重要な役割を果たしていました。先ほどのカメレオンマスクは、遠隔地のユーザーが、代理役の人間にジャックインする技術と言えます。ギブスンも描いたように、ジャックインする対象を人に限る必要はありません。たとえばドローンでもかまわない。これをご覧下さい(図2)。

図2

上田 HMDを被った学生さんが見ているのは、ドローンから見える映像ですか。

暦本 そうです。しかもこのドローンは、HMDの動きに同期して動きます。装着者がしゃがめば、ドローンも高度を下げ、装着者が立ったりジャンプしたりすればドローンも調子を合わせて高度を上げる。頭を右(左)に回して、自分の体をドローンの視点で後ろから見ることも可能です。このシステムを「フライング・ヘッド」と呼んでいます。

ADVERTISEMENT

スローガンは「人機一体」

上田 HMD装着者は、自分自身がドローンになったつもりになる?

暦本  ええ、まさに「私はドローン」という感覚になります。僕らの研究室のスローガンの一つは人馬一体ならぬ「人機一体」。つまり、人と機械の一体化です。究極のテクノロジーは、人間と機械を区別するのではなく、一体のものとして捉え、人間の能力を拡張していくものだと考えています。そういう意味で、僕らが開発した技術の中で、移人称小説の世界に最も近いのは「ジャックイン・スペース」かもしれません。一人称と三人称の視点を連続的に行き来できるテレプレゼンスシステムです。

上田 学生さんが、大型スクリーンで囲われた空間で、何かCGを見ていますね。

暦本 ある部屋の映像です。この学生が、スクリーンに映し出されている部屋のあちこちにジャックインするわけです。こういう役割をする人間を「ゴースト」、ジャックインされるほうの人間あるいはモノを「ボディ」と呼んでいます。(動画を見ながら)ボディの人間は360度カメラを頭部に付けており(図3)、ボディの向きを打ち消した上で、その映像がスクリーンに送信されます。そのおかげでゴーストはボディの向きに関係なく、自分の意志で、つまり一人称視点で周囲を見ることができるんです。

図3