「起業してから、異常な頻度でセクハラに遭うように」スタートアップ業界のセクハラ被害の実態

ーー著名な人物だと、こちらが物理的に距離を置いたとしても、メディアなどを通じて目の前に現れる。

松阪 そうなんです。あと、加害者と会わなくても、近しい人物と会ってしまったりとか。やっぱり、それなりの規模の会社の経営者だと、関係者に遭遇する機会が多いんですね。この前も、たまたま加害者の部下に遭遇してしまって。その部下に、嫌がらせをされたこともあったんです。

 私も「やめてください」と意思表示をしたし、時間が経てば嫌がらせはおさまるだろうとも思っていたのですが、逆に相手がヒートアップしてしまって。そうなると、いつまで経っても自分の傷が癒えないので、嫌がらせをやめさせるために法的な対応をしたこともあります。

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ーーフラッシュバックすると、動悸などが起きる?

松阪 とにかく、気持ちが不安になります。そこから、怖くなっていく。頭もボーッとしてきて、なにも考えられなくなるんです。

ーー社会人になる以前に、セクハラをされたことは。

松阪 学生時代はほんとに平和に過ごしてきて。セクハラなんて受けたことなかったし、いじめなんかも見たことがなかったです。会社員をやっていた時期もあるけど、さっきも話しましたけど、保険の営業をやってた頃は、セクハラっぽいことに遭うのはほぼなくて。

 起業してから、とにかく異常な頻度でセクハラに遭うようになって。常識では考えられないようなことが、当たり前のように行われていることに愕然としましたね。

 

「これは黙っているわけにはいかないな」セクハラ被害公表を決意した理由

ーーセクハラをされても「やりすごすことが賢い」と考えていたとのことですが、そこから声を上げようと思ったきっかけは。

松阪 セクハラをしてきた人に「エロは正義だ」って言われたんです。その人はセクハラ的な会話が日常的だったので、その人自身や経営している会社のためを思って「あなたは普段から結構セクハラをしていて、それに傷つく人もいますよ。止めた方があなたのためになりますよ」と遠回しに優しく伝えたんです。

 そしたら「エロは正義だから、誰のことも傷つけないんだよ」みたいなことを言ってきて。言われた瞬間、ここまでセクハラを理解できない人が、投資家として多くの起業家を支援している事実に危機感を感じました。また、当時私が受けていた二次被害も深刻だったので、「これは黙っているわけにはいかないな」「この社会問題を変えないと苦しむ人が増えるだけだ」って。

 自分の職や財産、人間関係などすべて失ったのに黙っている必要はなく、間違っていることに対しては「間違っている」と言わなくてはダメだと思ったんです。

 それで2024年2月から、セクハラに対する法整備をしてほしいと署名活動を始めて。NHKの番組でも私が受けた被害を取り上げてもらいましたけど、その後も誹謗中傷を受けました。

撮影=山元茂樹/文藝春秋

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