「また裏切られることはないんでしょうか?」
雅子さんは最後に尋ねた。
「今後3回に分けて1年をかけて開示するということでしたが、本当に出してもらえるんでしょうか? また裏切られることはないんでしょうか?」
これについては国有財産審理室長が明言した。
「今のところは、本気でやる気でやってます。(開示資料は全部で)17万ページプラスアルファでして、本当に人をかき集めてやれと言われて始めてます」
担当者が自身の言葉で実感を込めて語っていると感じられた。雅子さんは答えた。
「皆さんが大変な思いをしてやってくださっているのも重々承知しておりますので、その中で夫のこと、一瞬でもいいので思い出していただければと思います」
そして宣言した。
「最初に開示される文書が2000ページでしたら、私は財務省に取りに行かせていただきます」
話し合いの後、雅子さんはうららかな陽気の下、議員会館から歩いて財務省の正面に向かった。ここで夫と一緒に写真を撮ったことがあるという。この日は玄関前に咲き誇るハナモモを写真に収めた。来月はここに開示文書を取りに来ると誓いながら。
球場内でクレープ店の行列に並んでいる時に
その後、雅子さんは当初予定していた目的地、東京ドームへと向かった。お目当てはロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手。メジャーリーグの開幕戦となる東京シリーズを前に公式練習が行われた。友人に誘われ、大谷選手を一目見ようと訪れた。球場内でクレープ店の行列に並んでいる時、代理人の生越照幸弁護士から電話が入った。
「最高裁から上告棄却の決定が届きました」
雅子さんは情報開示の裁判より先に、国と佐川宣寿元財務省理財局長を相手に裁判を起こしていた。国は“認諾”という異例の手法で賠償だけを支払い、何の説明もしないまま裁判を終わらせた。残る佐川氏との裁判は一審二審と連敗し、最高裁で審理が続いていた。その上告が退けられたという連絡だ。ちょうどクレープを受け取るところだった。
「そうじゃなかったらその場で倒れていましたよ」
冗談交じりに語っていたが、悔しさは計り知れないだろう。佐川氏が主導した改ざんさえなければ、夫の俊夫さんが命を絶つことはなかった。裁判を通してお詫びと説明をと願ってきたが、佐川氏は法廷に姿を見せず何も語らなかった。裁判所は「公務員個人は賠償責任を負わない」という判例に基づき佐川氏の責任を認めなかった。改ざんをさせた責任を問えないなら、もう公務員がどんなことをしても責任を問えないことになる。