その朝、赤木雅子さん(53)は新幹線で東京へ向かっていた。国会で夫・俊夫さんのことが取り上げられるから。石破茂首相は何と答えてくれるだろうか? 期待と不安でいっぱいだった。
雅子さんは傍聴席の最後列に立って
森友学園への国有地の巨額値引きと、関連する公文書の改ざん。森友事件は8年前に発覚し、1年後、財務省近畿財務局の赤木俊夫さんが改ざんを苦に命を絶った。妻の雅子さんは「真実が知りたい」と財務省に情報開示を求めて提訴。一審では敗訴したものの、今年1月30日、控訴審で逆転勝訴に。石破首相は上告断念を決断し、財務省の不開示決定を取り消す判決が確定した。
雅子さんが開示を求めたのは、財務省が事件の捜査で大阪地検特捜部に任意提出した文書。真相に迫る手がかりがあるかもしれない。財務省はこれまで文書があるかないかも認めてこなかったが、上告断念を受け「相当な量がある」ことをようやく認めた。焦点は、この文書が黒塗りなしで全面開示されるのかどうかに移った。
2月17日午前11時。衆議院予算委員会で立憲民主党の川内博史議員が質問に立った。森友事件の発覚時から国会で追及。石破首相とは親交があり、雅子さんの手紙を仲介したこともある。冒頭でこう告げた。
「きょう実は赤木雅子さんも傍聴にお見えになっていらっしゃいます」
その瞬間、委員会室にいた議員が傍聴席を見上げる姿がNHKの中継画面に映った。雅子さんは傍聴席の最後列に立ち耳を傾けながらメモを取っていた。記者たちがカメラを向ける。川内議員はおもむろに本題に入った。
「きょう2月17日は、安倍総理が『私や妻が関わっていたら』という発言をこの議場でされた日であります」