ずっと怒られてるだけで、「違う、違う」と言われ続けた
湯浅 それが「未来探偵社」という劇団で、その後僕も所属することになるんですけど、「ああ、こんな世界もいいかも」と思ったんです。音楽活動を通じて人前に出ることには少し慣れてきて、多少人と話せるようにもなったんで、「しゃべるほうの表現もやってみたいな」と思ったのが、最初のきっかけでした。
――「うん」と「ううん」しか言わなかった少年が、ひとつひとつ段階を踏んで課題をクリアしてきたというのがすごいです。「未来探偵社」は入ってみていかがでしたか。
湯浅 今も同じ事務所の隈本晃俊さん(※『おむすび』、『ブギウギ』など多くの朝ドラにも出演)が座長をつとめる劇団で、僕がいちばん最初に芝居を教わったのが隈本さんでした。はじめのうちはずっと怒られてるだけで、「違う、違う」と言われ続けたんですが、何が違うのか全然わからなくて。「ああ、こういうことか」というのがわかるまでだいぶ時間がかかりましたね。
――「こういうことか」を掴んだのは、入って何年目ぐらいのときだったんですか。
湯浅 最初はほんまにわからないまま、とにかく言われるままやり続けて。2年目ぐらいですかね、他の劇団のプロデュース公演から僕に客演のオファーをいただいたことがあったんです。その許しを得ないとならないので、稽古場でいい感じになって座長から「今日良かったなあ」って褒められた日に、「こんな話がありまして」と切り出そうと思っていました。でも毎日怒られてるから、いつまでも言える日がこなくて(笑)。
――ただ時間だけが過ぎていったと。
湯浅 むこうの劇団の方が直接うちの稽古場まで来てくれて、事情を話してくれたんですが、隈本さんが「こんな芝居してんのに、よその劇団になんか出されへん」「もう一回、次の稽古見てから決める」と。
――その“試験”はどうなったんですか。
湯浅 僕はもう、どうしたらええのかわからへん、とにかくやるしかないという感じで。あんまり考えずに、うわーっとやったんです。そうしたら「まあ、ええんちゃうか」となって。
――お許しが出た。それまでの芝居と何が違ったんでしょうか。
湯浅 自分の中でやってることは一緒やったんですけど、今にして思えば、それまでは「怒られないように」ばかりを考えて芝居してたんやないかと。そういうのって顔に出るんですよね。「もう、どうにでもなれ」と臨んだのが良かったみたいです。「ああ、こういうことか」という感覚がありました。

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