植物的な時間と、そこから伝達できる知恵

山極 僕がアフリカで訪れた村々では、老人たちが家の前に椅子を置いて、ゆったりと座っています。通りすがりの若者や子どもたちが時々立ち止まって、彼らとちょっとおしゃべりをしては去っていく。子どもにも若者にもそれぞれの時間があるけれど、老人たちは止まっているから、植物的な時間がそこでは作り出されている。

 僕はよく思うのですが、流動性の高い加速する時代だからこそ、その中で自然の時間に立ち返った植物的な時間、そこから伝達できる知恵というのは大きな意味をもちます。それができるのはまさに高齢者の特権です。

――本当に「立ち止まる時間」って大切ですよね。

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山極 その点、都市の時間とはちがって、地方の田舎は道で立ち止まって気楽に話ができるし、みんな知り合いだから、互いにふらりと訪問して世間話をするような交流も生まれやすい。

 地方の人口減少を嘆く声は多いけれど、社交がしやすい地域のポテンシャルをうまく利用して関係人口を増やしていくことが地方創生の鍵だと思います。効率を求めてお金やサービスを集中させるスマートシティを推進し、憩える街を潰すような政策には常々疑問をもっています。むしろ、環境省が掲げる地域循環共生圏の発想で、各地域はそれぞれ自立しながらも繋がりを深めていくほうが優れたアプローチだと思います。

 いまは高齢者がいつまでも若くありたい、若者と同じように楽しみたいと思う人が多いけれど、違うんですよ。高齢者には高齢者なりの若い世代とはまた違う楽しみ方があるし、老いたなりの身体と知恵でしかできないことがある。立ち止まり、ゆったりとした時間のなかで、知恵を伝えていけるような生き方ができるんです。

 本書には、老いをめぐる学知から人生経験で得た気づきまで、考え方のヒントを多く記しました。目まぐるしい社会において、ふと立ち止まって考えてみる“憩いの一冊”になることを願ってやみません。

『老いの思考法』
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刊行記念トークイベント
4月3日(木)MARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店
「サル化する社会でどう老いるのか?」
山極寿一×内田樹 
https://online.maruzenjunkudo.co.jp/products/j70065-250403

老いの思考法

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山極 寿一

文藝春秋

2025年3月19日 発売