世界的巨大ターミナルから1日に数人しか使わないような小駅まで、日本には9000もの駅があるという。そうした様々な終着駅を歩き続けた鼠入昌史氏の著書『ナゾの終着駅』より、一部を抜粋して掲載する。
新幹線「のぞみ」で名古屋駅に近づいてくると流れる車内放送。そこでよく聞く「三河安城」には、妙におしゃれな「2つの駅」が……。
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愛知の片隅が「日本のデンマーク」? 妙におしゃれな「2つの三河安城駅」のナゾ
デンパークは、デンマークをもじったものだ。三河安城とデンマークはどういう関係があるのだろうか。それには三河安城駅がある安城市の歴史が深く関係している。
江戸時代まで、安城市一帯は台地上の安城ヶ原と呼ばれる水に乏しい原野だった。水に恵まれない安城ヶ原に矢作川から取水した農業用水(明治用水)が整備されると、これをきっかけに、安城市一帯は先進農業都市へと変貌を遂げた。1891年には安城駅も開業。
安城の都市としての中心地も安城駅周辺に広がってゆく。今でこそ、安城市は名古屋郊外のベッドタウン、またトヨタ自動車関連の工場が建ち並ぶ都市だが、一昔前までは日本でも有数の農業都市だったのである(主な作物は米や梨など)。
そこでヨーロッパの農業先進国だったデンマークにちなんで「日本のデンマーク」と呼ばれるようになった。そんな「日本のデンマーク」にある新幹線駅ということで、駅舎はデンマークの農家をモチーフにしたデザインになったのだという。
デンマーク化のきっかけとなった明治用水は今でも現役で、一部が三河安城駅前のこの公園の地下を流れている。ナゾが深まるばかりだったおしゃれな駅舎と駅前の広い公園は、安城という町の歴史にしっかりと根ざした由緒あるものだったのである。やはりどんな駅にも物語があるものだ。
ちなみに、もうひとつ安城には名物がある。それは『ごんぎつね』『手袋を買いに』でおなじみの童話作家・新美南吉。安城駅に隣接する駐輪場の外壁には新美南吉作品のウォールアートが描かれている。
なんとなく新美南吉は北国の人だと思いこんでいたが(『手袋を買いに』のイメージである)、実際は愛知県半田市出身、安城にあった女学校で教鞭をとっていたことがあるそうだ。そこで安城市は新美南吉ゆかりの町としてもアピールをしている。