ダディの早期退職。すれ違いの表面化

 8年続いたバルセロナでのワンオペ育児は、2018年にダディの早期退職という形で終わりを告げました。それまでインターナショナルバンカーとして世界を飛び回り活躍していたダディが、突然、24時間家にいることになり、我が家はまた変化の時を迎えたのです。

 ダディは5年間の単身赴任生活をマドリッドで送り、週末だけ家族と過ごすというリズムに慣れていました。当然、バルセロナには気軽に話したり飲みに行ったりする友人もおらず、退職後の生活に目的を見出せないまま、一日を過ごすようになりました。それまでの忙しくも充実した日々から一転して、自分の居場所を見失ったかのように見えました。

 

 一方で、私は一日中家にいるダディに戸惑いを感じました。子ども6人の食事や家事に追われる毎日。そんな中で、頼りになるどころか、何もしない彼に、どうしても優しく接することができませんでした。「家にいるなら家事を手伝ってほしい」「私がこれまでどれだけ大変だったか、せめてわかってほしい」、そんな思いがくすぶっていました。学校行事や宿題、受験などの手伝いもほぼ私一人でやっていたのに、突然やってきて、食事、子育てにダメ出しされるように感じることもあり、次第に私たちの間には小さな言い争いが増えていきました。

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 ダディの立場から見れば、家族の中で自分だけが置いていかれるような孤独感があったのかもしれません。当時、子どもたちが日本語学校に通っていたこともあり、家の会話はほとんど日本語。食事中もダディは一人でポツンとしていることもありました。

 ダディもまた新しい生活の中で不安や孤独と戦っていたのでしょう。でも、当時の私は彼をケアする余裕など持てず、むしろ「なぜ家にいるだけで何もしないの?」といういら立ちが募るばかり。

 私たち夫婦は、再び一緒に暮らし始めたものの、その間にできた溝は埋まるどころか、むしろ広がっていったのです。