予算60万円で深夜番組を作るカラクリとはいったい…? 在阪のテレビ局で23年間働いていた元テレビプロデューサーが明かす、驚きの制作事情を紹介。元テレビプロデューサーの北慎二氏の新刊『テレビプロデューサーひそひそ日記――スポンサーは神さまで、視聴者は☓☓☓です』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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制作費わずか60万円
「次のクールの金曜深夜30分枠。できるだけ金がかからないように番組を作ってもらえへんか」
編成部長からの依頼だった。まかされた新番組の予算は、1本あたり60万円。
金がないのはいつものことだが、それにしても少なすぎる。そのうえ、次のクールまではあと1カ月しかない。
番組作りは放送スタート3カ月ほど前から動き出すのがふつうだ。1カ月で影も形もないところから番組を作り上げるのはキビシイ。
だが、四の五の言っても仕方ない。船はもう動き出しているのだ。
通常、番組企画の立ち上げに際してはディレクターや構成作家と企画会議を行ない、意見を出し合いながら方向性を決めていく。だが、このときは時間が迫っていたこともあり、自宅で深夜、企画書を一気に書きあげた。企画を考えることは大好きで、自分のアイディアがテレビで放送されるかと思うと、ゾクゾクッとした快感につつまれた。
番組タイトルは「お仕事あげちゃう」。オーディションの体裁で、出演者は素人の女の子。彼女たちが一芸を披露し、審査員が札を上げたら合格となる。要は、日本テレビで昔放送されていた「スター誕生!」の安物のオマージュというかパクリだ。
番組の肝になるのが審査員で、古本興業や竹松芸能、東京の大手事務所・ホーリープロや大手モデル事務所などに無理を言ってお願いした。そして、審査員の末席にはノーパン喫茶で有名な「あべのスキャンダル」を配する。大手事務所から札が上がらなくても、必ず「あべのスキャンダル」の札が上がるという仕組みだ。
書きあげた企画書を後輩のディレクターに渡して、「あとは適当に頼む」とだけお願いした。
企画案を固めたら、続いては予算の割りふりだ。番組セットの美術費から、カメラマン、カメラアシスタント、音声マン、照明マン、スイッチャー、ビデオエンジニアなどの技術費、タイムキーパー(TK)や外注ディレクターへの支払いまで含めて60万円でまかなわねばならない。
番組セットの美術費はその総額を最低放送予定期間(1クール=13本)で割って、1本あたりの制作費に含める。美術費の総額が150万円なら、150万円÷13本=1本あたり約11万5000円だ。これに美術セットの建て込み費用(人件費)も必要になる。ここにかかる費用は大きいので、できるかぎり削りたい。
美術会社の担当者に相談する。
「新しい番組を作ることになったんやけど、予算がないんですよ。1本1万円とかで美術セットなんか絶対無理ですよね」
いつもどおりの“話法”だ。
