北海道を舞台に、侵攻するロシア軍と自衛隊との壮絶な戦闘を、一小隊長の視点から描いたマンガ『小隊』がいま注目を集めている。

「発売2日で早くも重版が決定しました。文春オンラインで連載中から大人気で、特に“現役”ないし“元”自衛官からの反響が大きく、『鳥肌が立つリアルさ』『最高の自衛隊マンガ』といった投稿がありました」(担当編集者)

ロシア軍が二方面から北海道に侵攻

 内容を簡単に紹介すると……宣戦布告のないまま、ロシア軍は新千歳空港をはじめ重要施設をミサイル攻撃した後、道北と道東の二方面から北海道に上陸した。迎え撃つ自衛隊は住民を避難させ、防御態勢を固める。

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 にらみ合いが続くなか、小隊を率いる安達3尉は釧路郊外の中隊指揮所から呼び出しをうける。「敵は明朝、行動開始と見積もられる」。迫り来る戦車、歩兵戦闘車、装甲車。いよいよ“ホンモノの戦闘”がはじまる……。

 原作は元自衛官の作家、砂川文次さんの芥川賞候補作。折も折、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発し、タイムリーな内容が注目を集めた。その衝撃作を精緻なミリタリー・イラストレーションで知られる柏葉比呂樹さんがコミカライズした。

 砂川さんはかつて陸上自衛隊航空科に所属し、対戦車ヘリコプターのパイロットを務めていた。コミカライズに至る経緯や、原作に込めた思いについてお聞きした。

──作画を柏葉比呂樹さんに決められた理由について、お聞かせください。

砂川 コミックの担当編集の方が、お声がけをさせていただく漫画家さんの作品やポートフォリオをお持ちくださって、その中に柏葉さんのものがありました。その時のイラストは太平洋戦争関連のものが中心だったのですが、わたしは兵器よりも、それ以外の緻密な描写の方に魅力を感じました。

 架空のものであれ史実のものであれ、また小説、マンガといった媒体を問わず、戦争というテーマを題に取るに際しては、おそらく作品の強度を担保するため「一定以上の細かさ」みたいなものが求められるのではないかと私は考えているのですが、これはうっかりすると趣味的・嗜好的なものに傾いて、かえってリアリティを損ねてしまうことがあります。

 その点、柏葉さんの作画は偏りのない精密さが細部に感じられ、この方なら戦闘を“ニュートラル”に描いていただけるのではないかと思い、このたび仕事をご一緒することとなりました。

──コミカライズ版『小隊』の作画について、感想をお聞かせください。

砂川 柏葉さんが非常に緻密なお仕事をされる方だというのはポートフォリオを見て知っていたのですが、実際にコマの中に落とし込まれた世界を見てみると、草木や装甲車や山々といったものが立体的に描画されており、その濃密さに非常に驚きました。

──作画に当たっては、装備や陣地などの資料を提供されたと聞きました。苦労した点、楽しかった点などお聞かせください。

砂川 多分、コミカライズでしたわたしの苦労は、作画を担当された柏葉さんと比べればものの数には入らないと思います(笑)。強いてあげるとすれば、『小隊』を上梓したのが数年前ということもあり、当時の意図なり資料なりが自分の中からそっくり抜け落ちているのにはいささか困りました。

 私も結構マンガは読むほうなので、登場人物の案やラフ画でのやりとり、ペン入れといったリアルなマンガのお仕事を近くで拝見できたのはとても楽しい経験でした。