精度の高い作画力に圧倒される

──発売2日目で増刷と、売れ行き好調です。コミック化の反響の大きさは予想されていましたか?

砂川 コミック化がどのように受け止められるかは、正直なところわたしにはよく分かりませんでした。ただ、先ほどの回答と若干重複するところでもありますが、柏葉さんの作り込みと精度の高い作画力は多くの人の目に留まるだろうとは思っておりまして、実際、ウェブ連載当初からそれなりのプレビューをいただいているというお話は、コミック編集の方から伺ってはおりました。今回、改めて単行本になったというところで、さらに多くの方が手に取っていただければ幸いです。

──ロシアによるウクライナ侵攻も3年が経ち、トランプ米大統領の登場によって、新展開が予想されています。今後の展望について、ご意見をお聞かせください。

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砂川 評論家の山本七平は、その著書の中で、ロゴス(論理)ではなくパトス(感情)に仕えさせるような日本軍の特徴を捉えて、『兵士から言葉を奪った』ことを最大の失敗と指摘しました。わたしたちは、時にまったく予想だにせず、また承服しがたい状況と向き合わなければならないことがあります。

 このようなとき、子細な分析はかえって最悪な状況を克明に描きだすだけなので、いっそ激情に籠絡されたい誘惑にかられてしまいます。激烈かつ流動的に変化する状況だからこそ、集団浅慮に陥ることなく、絶望的な状況を目に焼き付け、多くの人と“ことば”を交わすのが重要なのではないかと思いました。

──作品に込められたメッセージなどありましたら、お聞かせください。

砂川 「リアル」、「ホンモノ」といった評価をされることが多い本作ですが、当たり前といえば当たり前ですし、幸運なことにわたしは戦争を体験していません。そのうえで、この作品に何か本当に近しいものが宿っているのだとすれば、それはきっとイメージの力なのだと思います。そしてわたしは、この力こそ、世界各地で巻き起こる戦争や差別や分断といった危機を理解するカギなのではないかと思っています。

すなかわ・ぶんじ

1990年大阪府生まれ。自衛官を経て地方公務員。2016年、「市街戦」で文學界新人賞を受賞しデビュー。22年、「ブラックボックス」で芥川賞を受賞。著書に『小隊』『臆病な都市』『越境』など。

小隊

砂川 文次 ,柏葉 比呂樹

文藝春秋

2025年3月21日 発売