一方で、彼の語り口は、何の抑揚もなく、感情の起伏も喜怒哀楽も感じさせない、ただ彼の心の中のもやもやしたものが空中に浮遊しているという、まさに“霧の中”だった。
「僕は1か月に1回、聖マリアンナ医科大に通院しているんです。そこで僕と同じように“人を食べたい”という女性と知り合いましてね。いつか死なない程度にお互いを食い合おうと言ってるんです。僕は今でも女性を食いたいと思っていますよ。電車なんかで女性のふくらはぎを見ると食いつきたくなるんですよ」
「食べたい。とても食べたい」佐川の食欲を刺激したのは…
また、こんなことも言った。
「いま女優の上戸彩さんと鶴田真由さんが、食べたい。とても食べたい」
私は、霧の中から語られるそんな一言一言を軽くかわしながら、佐川氏の口元を見つめていた。
これは、彼のサービス精神からくる言葉なのか、それとも本音なのか。その口元から発せられる悪魔のささやき、心の底から突き上げてくる欲望は、佐川一政というひとつの肉体が背負った業なのか。
だとすると、彼はその業を背負って、冴えわたる満月の裏側のような暗黒の世界を漂っているのかもしれない。そんなことを考えながらも、あのときの私は彼の本質に迫ることはできなかった。
いや、今でもできないだろう。彼はその業を背負ったまま、黄泉の国へと旅立っていったのだ。人は彼をモンスターと呼んだ。
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