権藤さんの「言霊」と「バカヤロー」

 私がコーチとして投手にかける言葉は、特に権藤さんの影響が大きい。私自身、マウンド上でも私生活でも、心ない言葉で嫌な思いをしたことがたくさんあったが、自分が嫌な思いをした言葉は絶対に使わない。マウンドでも当然そうだ。

 例えば、その投手が一番のことを言うようにする。

 チームで一番、球が速い選手なら、

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「お前がこのチームで一番速い球を投げる投手なんだ! リラックスしてゾーンに投げ込め」

 マウンドで苦しんでいる投手がチームで一番、防御率がいいなら、

「うちにはお前以上の投手はいない。お前が勝負せずに誰が勝負できる? 勇気を持って投げ込め」

 経験の少ない伸び盛りの子は、打たれることを嫌がって決まって四球を連発する。そんな若い投手は、投げる前から結果を怖がる傾向がある。そんな時は、「お前の球ならアウトを取れるから勇気を持って腕を振って投げ込め」

 

 実はどの言葉も、権藤さんからマウンドでいただいたありがたい言葉を自分なりにアレンジしたものだ。「言霊」という考え方があるが、まさしくそれだと私は思っている。

 私が権藤さんと違うのは、権藤さんはマウンドに来て決まって最初に「バカヤロー」と言ってから話し出す。他の投手にもそうだったのか? 私に対してだけだったのか?

 権藤さんの「バカヤロー」には強弱があり、到底真似できるものではない。権藤さんの「バカヤロー」は私にとって、不思議と頭の中をクリアにしてくれる愛ある「バカヤロー」だった。

 権藤さんは、コーチとしても投手としても敵わない偉大な人だ。自分のほうが勝っているところをあえて挙げるなら、選手生命が長かったことくらいだが、短命に終わった自らの経験でさえも、権藤さんは監督として、投手の球数やイニング数の管理という形で当時から取り入れていた。まだ今のようにデータ管理されていなかった時代、アナリストなどいない時代に、だ。

 これらは、権藤さんにまつわるエピソードのほんの一部。権藤さんの投手理論は今の時代にも十分通用するだろう。むしろ、今の投手にも必要な思想と思考ではないかとさえ思う。

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