ところが、これを一転「女子目線」の歌に変えてしまうのがシンディの底力だ。

「歌う時にキーを変えることで、まったく新しい個性的な音になるはず。うまくアレンジして最高に楽しい曲を作るの。楽しいことがすべてよ。夏に流れるテレビコマーシャルみたいにね」

 独特のハイトーンボイスから落差のある音程の変化。80年代に一世を風靡したゲートリバーブ(残響音をエフェクターでいきなりカット)も応用された。そしてシンディ特有の「ハッ!」というしゃっくり音。自分らしく生きる少女の歌に見事仕上げてしまった。

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ミュージックビデオで実母と共演

 続いてミュージックビデオの制作だ。この時代、急速に広まっていたが、ここでもシンディは“らしさ”を押し出した。真っ赤な衣装、派手な振り付け、人種も個性も多様な女性たちが奏でる「女の子はただ楽しみたいだけよ」。喜びに満ちた自由な世界観だ。出演者には日本人もいる。さらに当時から知られた話だが、実の母親が母親役で出演している。

「母に、親子の仲が深まるから出演してほしいと頼むと“やってみる”と。素人とは思えない演技だった。母はただ私と過ごすために協力してくれたの」

映画場面写真

 室内で踊るシンディの足元に注目してほしい。靴を履いていない。ステージでも履いていない場面がある。早くも“Ku Too”を実践していたのだ。一方でハイヒールを履くこともあり、気分次第で自由自在だった。

「すべての女性に、自分自身を理解してほしかった。どこの誰かに関わらずね」

 時代を先取りしたガールズパワー全開の歌。ところが意外にも出足が悪かった。評論家の評価は散々でチャートも低迷。時代を先取りしすぎたのか? これで終わらせるわけにはいかない。マネージャーは一計を案じた。デビューアルバム『シーズ・ソー・アンユージュアル(彼女は普通じゃない)』のタイトルを地で行く痛快な作戦。その中身は映画で確認して頂くとして、作戦は功を奏しチャートは全米2位に急上昇。彼女は一躍、時の人となる。