何かと比較されたマドンナ

 シンディと言えば、ほぼ同時期にデビューしたマドンナと何かと比較されてきた。「自由に(好きなように)生きる」という意味では共通している。だが自由の方向性が、自分自身の楽しみを重視するか、世の中を変えたいと意識しているかの違いがあるように思う。年齢も当時シンディ30歳、マドンナ25歳で、この年代で5歳の違いは大きい。だから同世代の洋楽ファンは「シンディ派」「マドンナ派」に二分された。そして僕は……大学生だったあの頃、家庭教師先で高校生男子に「本気でおバカができるのが本物だよ。やっぱマドンナよりシンディだ」と力説したものだ。何を教えていたんだか。

 デビュー曲の邦題は当初『ハイ・スクールはダンステリア』だった。あの頃、洋楽の邦題に原曲とまるで違うタイトルを付けることはままあった。ところが来日したシンディがこれを知って「元の意味と全然違う」と怒ったという。このエピソードをレコード会社の担当者がテレビで話しているのを観た記憶がある。担当者は「そりゃアーティストは怒ります」と言いながら、「でもあの曲はやっぱり『ハイ・スクールはダンステリア』ですよねえ」と語ったのだ。それが妙に説得力があった。

東日本大震災とシンディ・ローパー

 2011.3.11、東日本大震災。シンディは当日たまたまツアーで日本に着いた。海外アーティストが相次ぎ帰国する中、彼女は予定通り日本にとどまりツアーを行い、会場で募金を募った。困難にある人を見捨てない。ミュージックビデオには字幕でエイズ患者を支援するメッセージ。その姿勢は一貫している。最後にスクリーンからにっこり、

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「話は以上よ。また長くなっちゃった」

 それを観てつくづく、

「シンディ、いい歳を取ってるな……」

 今、71歳。これからも「自分らしさ」を訴え続けるのだろう。4月に日本で最後となる単独ツアーを行う。この映画はその「前夜祭」として期間限定上映される。エンドロールの途中にもうワンシーンあるからお見逃しなく。詩人・金子みすゞの「みんなちがって みんないい」を体現する作品だ。

デビュー当時の写真

『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』

監督:アリソン・エルウッド/出演:ビリー・ポーター、ボーイ・ジョージ、パティ・ラベル、グロリア・スタイネムほか/2023年/アメリカ/98分/配給:カルチャヴィル/4/11 (金) よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国劇場にて期間限定上映

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