3日発表された米アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞。イスラエルのパレスチナ弾圧をえぐった『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』(公開中)は、イスラエルの影響が強いアメリカで受賞するのか、注目が集まった。結果、見事に受賞。今観られるべきドキュメンタリーの傑作を、ジャーナリスト・相澤冬樹はどう見たか?

Ⓒ2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA

◆◆◆

カメラマンを捕らえろ!

「撮影してるぞ。全部撮ってる!」

 パレスチナのジャーナリスト、バーセル・アドラーがカメラを回しながら叫ぶ。自分たちの土地に押し寄せてきたイスラエルの兵士や入植者たちに。この言葉が映画の主題をよく表している。武器を持たないパレスチナ人にとって、強力な武力を持つイスラエルに立ち向かう最大の“武器”はカメラだ。撮影し、映像をネットで拡散し、世界中にイスラエルの暴虐を訴える。撮られる側もカメラの力がわかっているから脅しにかかる。

ADVERTISEMENT

「誰を撮ってやがる」「カメラマンを捕らえろ!」

 こうした発言自体、撮られてはマズイことをしている自覚があることを示している。「撮らせない」のは権力者の常とう手段だ。だから脅すだけではない。銃を構えた兵士が迫ってくる。入植者が石を投げつけてくる。

Ⓒ2024 ANTIPODE FILMS. YABAYAY MEDIA

 バーセルは走って逃げながらもカメラのスイッチは切らない。まさに「カメラを止めるな!」だ。映像はブレブレだが、かえって緊張感が伝わる。「バーセル、危ない!」という仲間の緊迫した叫びを受け、走りながらも声を上げ続ける。

「僕に触れるな。引き下がらないぞ! ここは僕らの家で、お前らの家じゃない」