映画『どうすればよかったか?』の反響が凄まじい。統合失調症になった姉、なかったことにしようとする両親。家族の秘密と葛藤を赤裸々に描く壮絶なドキュメンタリーだ。昨年12月に4館で公開が始まるや、評判が評判を呼んで異例のロングランに。今や全国100館以上で上映され、観客は12万人を突破。興行収入は1億8000万円に達した。この事態に藤野知明監督自身も、

「いやもうまったく予想していませんでした。長編映画は4本目ですが、3本は劇場公開にも至らず。今回も何とか赤字が出なければいいなとしか思ってなくて」

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 印象的な冒頭とラストカット、タイトルに込めた狙い。そして反響が広がる中で藤野監督が語った、事実を伝える“覚悟”とは? 作品の構想を練り上げた札幌の事務所から、秘めた想いをオンラインで語ってもらった。

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両親の姉への扱いに感じる「悪の凡庸さ」

――反響の大きさについて、どう受け止めていますか?

藤野知明監督(以下、藤野) 劇場でのサイン会で観客の皆さんと話すと、3割ぐらいの方は(精神疾患の)当事者やご家族。精神医療に関わる医師や専門職の方もいます。それ以外に精神疾患に関係ない方も強い関心を示してくださることはうれしい驚きでした。自分ではそれほど意識していなかったんですけど、観た方はこれをどの家族にも起きうる話として身近に感じてくださったのかなと思います。

――冒頭で、家族写真から暗転して暗闇から叫び声が聞こえてきます。あれで一気に作品へ引き込まれていく感じがしました。

藤野 僕は大学を卒業して一度就職してから映画の専門学校で録音を勉強しました。だから作品の冒頭を音の演出で印象付けたいと昔から考えていました。姉の叫び声を録った頃はまだ大学生で、カメラはなく録音だけです。そこに別の映像をかぶせず音だけで始めると、あの声をより敏感に感じられて作品の内容が伝わるだろうと考えました。

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――一方で最後にエンドクレジットが出て、終わりかなというところでワンカット、お姉さんの映像が出てきますね。こちらは逆に音がなくて、それがまた印象的です。

藤野 姉が車で出かける私を見送るシーンですね。姉は父が出かける時いつも見送っていましたが、父が脳梗塞で倒れて外出しなくなってから、僕に手を振ってくれるようになりました。その姿を撮ったんですが長さが1秒くらいしかなかった。短すぎるんでスローをかけたら、音が低く不自然になったので無音にしました。すると、すごく強い意味があるカットになって、本編のどこにもはまらなくなっちゃったんです。だから本編から離して一番最後に置くしかないと考えました。