なぜ両親は病院に連れていかなかったのか?
藤野 その次に来る問いは「なぜ両親は病院に連れていかなかったのか」になります。それは両親が姉の病気を恥じたからで、間違っていた、と言うのは簡単ですが、それでは問題を家族の良心の話に矮小化してしまう気がします。本当に問題なのは、ともに医師で合理的な判断ができる両親がなぜこういう判断をしてしまったのか、ではないでしょうか。
――そこを監督は長年そばで見ていてどう感じているんですか?
藤野 一つには精神科病院の状況ですね。姉が発症した1983年当時、きちんと当事者を治療できる状況にあったのかどうか。もう一つは世間の目。精神科に通院とか入院するということがどう受け止められていたのかもあったと思います。そういうことを考えた上で両親は医療という選択をしなかったんじゃないかなと。
――この映画を紹介する記事(完売回続出、この冬最大の話題作に躍り出た衝撃のドキュメンタリー『どうすればよかったか?』はなぜ大ヒットしているのか?)を公開から間もない頃に出しましたが、監督と同じような考えの読者から、「どうすればよかったか、と言っても、こうするしかなかったんじゃないか」という声も寄せられました。
藤野 精神障害に限らず、日本では障害のある本人のためというより、障害者を閉じ込めて、障害がない人たちの社会から隔離するという政策になっていたと思うんです。ハンセン病もそうですよね。誰のための医療なのか? それは昔の話で今はすべて解決している、とは思えません。
――障害それ自体を問題視して排除する空気が今もありますね。
藤野 この映画に関するインタビューを最初に受けた時、「統合失調症の姉の問題をドキュメンタリーにした」って言われて。よく考えてみたらすごい間違いじゃないですか。統合失調症であることは問題じゃない。病気は大変なことだけど、それを問題だと思って僕はドキュメントに撮ったわけじゃない。カメラを向けたのは姉じゃなくて、むしろ両親や僕自身、周りにいる家族の問題として撮ったんです。
