阪神・淡路大震災から30年となる1月17日、甚大な被害に遭った街に生きる人々を描いた作品が公開された。震災の直後に神戸市長田区に生まれた女性が、いくつもの悩みや苦しみを感じながら、自分の生きる道を見出していくドラマだ。震災当時、現場で取材にあたっていたジャーナリスト・相澤冬樹が、自らの記憶とともにつづるドキュメンタリー・シアター特別編。
◆◆◆
帰化を目指す姉に反対する父
「はー、はー、はーー……」
浅い呼吸をせわしなく繰り返す。海面で揺らぐ波の合間から湧き上がってくるように。心が追い詰められているのだろう。これから始まる物語を暗示している。
30年前の阪神・淡路大震災。大都市直下の大地震で6434人が亡くなった。主人公の金子灯(あかり)は、その直後に神戸市長田区で生まれた。直接の被災体験はないが、両親は家も仕事も失い、家庭も崩れかけている。父親の「震災さえなければ」の言葉が重い。
灯の姉に結婚話が持ち上がる。まだ相手に会ってもいないと怒り出す父親に姉は、
「会って何話すん?『在日韓国人ですけどいいですか』って言うん? 絶対やめてな」
姉は帰化を目指している。父親は「家族が壊れる」と反対だ。灯は普段在日であることをほとんど意識しないが、弟がスマホで何かを検索しているのに気づく。「在日特権」に関するサイトだ。実在しない“特権”への誹謗が、立場の危うさを物語る。