パレスチナ人の自由なしにイスラエル人の安全はない
そう言われれば返す言葉もないが、ユヴァルは手をセメントまみれにして破壊された住宅の再建を手伝い、次第に村へ溶け込んでいく。バーセルとユヴァル、ともに20代で同い年の二人は敵対する民族に属するという立場の違いを超え、一緒に撮影しながら互いの距離を縮めていく。
住人が撃たれた抗議のデモでバーセルは先頭に立った。横断幕には「PALESTINIAN LIVES MATTER(パレスチナ人の命は大切だ)」の文字。もちろん「BLACK LIVES MATTER」からきている。だが軍の銃声が響き、参加者は散り散りになる。
「きょうのデモのことを書く。記事を増やさなきゃ。閲覧数が少ない」
発信を増やして事態を変えたいと願うユヴァル。だがバーセルは冷静だ。
「君は熱すぎるんだ。すぐに解決はしないよ。何十年も続いてる問題だ。忍耐が必要だ」
やがて彼らの発信がテレビメディアで取り上げられるようになる。
「憎しみを向けられています。スマホやカメラで犯罪行為を撮影するから」
「イスラエル人として強く訴えます。パレスチナ人の自由なしに我々の安全はない」
それでも軍は破壊をやめない。村の鶏小屋を壊した兵士たちにバーセルが迫る。
「撮ってるぞ。君らは人を追い出す犯罪者か!」
すると兵士たちは「近づいたら逮捕だ」。「何の容疑で?」と聞いても返事はない。問答無用で地面に押し倒し引きずっていく。そのさなかもバーセルの抗議の声はやまず、カメラも止まらない。兵士の靴や地面の茂みがドアップで映る。父親が声を張り上げた。
「息子を殴るな。我々の村から出ていけ!」
