ボウイの透き通る瞳に吸い込まれそうになる

「何より彼の外見に魅了されたね。ガラスの義眼かな、と思った」

 彼は、美しい。名曲「スターマン」を歌う顔のアップ。左右の瞳の色が違う。黒目の大きさも違う。少年の頃けんかで受けたケガが元らしい。でも、それがいい。透き通るような瞳に吸い込まれそうになる。初期のアルバムに参加したセッション・ミュージシャンが語る。

デヴィッド・ボウイ

「地球が青いとか、宇宙から来たとか、そんな曲をやる奴なんだけどさ、何て言うか……一発で夢中になった」

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 そう。デヴィッド・ボウイは、その姿を見つめているだけでありがたい。手を顎に当て、斜め下を見下ろす姿のぞっとする色気。でもね、この映画の本当の価値はそこじゃないんだ。

“伝説の妻”アンジーの貴重な証言

「人間ってとんでもないことをするもの、本当に!(笑)他人が見てなければね」

 映画冒頭で登場する女性が“アンジー”だと気づいた時の驚き。ボウイの最初の妻だが、その名から真っ先にイメージするのはローリング・ストーンズの曲。「アンジー、アアイイ~ンジ~~」とタメをつけたミック・ジャガーの歌声が印象的なバラードだ。この曲のアンジーはボウイの妻のことだと噂された。ミックの相棒キース・リチャーズは否定したけど、僕らの記憶にはそう染みついている。ミックが愛を歌った“伝説”のアンジーがしゃべる姿を初めて見た。ボウイとの馴れ初め、彼を売り出すための道。貴重な証言を「へ~」と思いながら観ていると、ボウイの出世作について皮肉の利いた言葉が飛び出す。

アンジー・ボウイ

「『スペイス・オディティ』はいい曲だった。コミックソングみたいだけど。売れると思った。ちょうどいい塩梅に反米的で。わかる? BBCの音楽担当がかけたくなるようなね」

 ストーンズの曲のイメージとは裏腹に、現実のアンジーはサバけた姐さんのようだ。

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「私はカトリックを捨てた人間なの。15歳の時、女の子と関係を持って追放された。イカすでしょ、わかる?」

 わかるよ、イカしてるよ。そんな彼女の発言は容赦ない。初期のボウイのライブについてうんざりした表情で語る。

アンジー・ボウイ、デヴィッド・ボウイ

「とにかく退屈だった。これ以上ないくらいつまらなかった。曲は素晴らしいんだけど」

 そこで彼女はショーの後、バンドのメンバーたちに提案した。

「あのね、もうちょっと演劇的な演出を入れたらね、めちゃくちゃクールになると思う」