メンバーにド派手な衣装を身に付けさせるための策略だったという。こうしてバンドはきらびやかなグラム・ロックの世界へと導かれた。それが大人気アルバム『ジギー・スターダスト』へと結実する。異星から救世主としてやってきたバイセクシャルのロックスター「ジギー」の物語。ボウイはジギーになりきり、その栄光から没落までを演じ切った。このアルバムにある「5年間(Five Years)」という曲についてのアンジーの話も興味深い。
「あれは私が書いてってリクエストした曲なの。代表歌みたいに盛り上がる曲が最後に必要だと思ったから。観客はイキたがってるようだけど、そうさせる曲がなかった。一緒にサビを大合唱できたらいいんじゃないかと思ったの」
「イキたがってる」という字幕の部分でアンジーは実際に「come」としゃべっている。やっぱりサバサバ系の姐御だ。そして出来上がった曲は狙い通りライブの定番となった。
音楽というより演劇だったんだ
僕のボウイ初体験は高校1年の時、NHKの『ヤング・ミュージック・ショー』だった。田舎のロック小僧が海外のスターの演奏を観ることのできる数少ない機会だ。コカイン漬けだったボウイの闇が垣間見える「ステイション・トゥ・ステイション」、ベルリン時代の「ヒーローズ」「美女と野獣」。そしてアンジーの発案で生まれた「5年間」も演奏され、客席は盛り上がった。テレビの前の僕も。ボウイの成功はアンジーなしにはあり得ない。
バックバンドとしてボウイを支えたメンバーたちが映画で証言しているのも興味深い。バンド経験のほとんどなかったボウイをいかに盛り立てたか。フォーク志向だった彼の曲をいかにロックに変えていったか。観客が投げつけるビール瓶を防ぐため、ステージの前に柵が立てられたという話も面白い。映画『ブルース・ブラザース』の世界そのままだ。
スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』や『時計じかけのオレンジ』からの影響も語られる。
「音楽というより演劇だったんだ。舞台で見せたのはジギーの物語だ」