突然の解散
『ジギー・スターダスト』をひっさげてのアメリカ・ツアーは最初、会場に観客が200人しか来なかった。ところが3か月のツアーを終える頃には1万人の会場が2日間満席に。メンバーみんなが手ごたえを感じた、まさにその時、ボウイは突然「ジギー」の終焉を宣言、バンドも解散する。恨み節を漏らすメンバーもいる中で、映画はエンディングに。「えっ! これで終わり?」と驚かされた。
でも考えてみれば、これしか終わりようがなかったのだろう。なにせこの映画はボウイが主役なのに彼自身の発言はほとんど出てこない。スターダムにのし上がるボウイをそばで支えた人たちが彼を評した作品だ。いわばボウイの“欠席裁判”。ジギー終焉はメンバーには不満だったろうが、その後の展開を考えればボウイにとっては賢い選択だったとBBCのプロデューサーも認めている。メンバーの一人、ドラマーのウッディ・ウッドマンゼイが語る言葉が余韻を残す。
「ゴールに着いた時より、ゴールをめざす時間が幸せなんだ」
意味合いは少し違うが、似たようなことを私も体感している。「特ダネを取れそうだ」と思う時、取ったらどうなるかと考えている時は楽しい。実際には特ダネにならずに終わることが多いけど、取れるかも、と思っている時が一番幸せなんだと。
ボウイの語らない、ボウイのアナザー・ストーリー
ウッディはみんなで一緒に暮らしていた頃を振り返る。
「朝起きて、コーヒーを飲んで、下の階でドラム叩いて、そのまま皆でジャムって、その後朝食で……ってね。過去を振り返ればあの時が一番楽しかったと気づけるけど、その瞬間はほとんど気づかない」
幸せは、その瞬間にはわからない。ボウイが語らない、ボウイのアナザー・ストーリー。それがこの映画の醍醐味なんだな。
『デヴィッド・ボウイ 幻想と素顔の狭間で』
監督:The Creative Picture Company/出演:デヴィッド・ボウイ、スパイダーズ・フロム・マーズ(以上、アーカイブ)、トレヴァー・ボルダー、ウッディ・ウッドマンゼイ、アンジー・ボウイ、ティム・レンウィック、ハービー・フラワーズ/2007年/イギリス/64分/配給:NEGA/©SHORELINE ENTERTAINMENT/全国順次公開中