イスラエル人ジャーナリストの登場

 舞台となる村、マサーフェル・ヤッタは1967年、第3次中東戦争でイスラエルが占領したヨルダン川西岸の一角にある。1993年のオスロ合意で西岸はガザ地区とともに一部がパレスチナ自治区とされ、和平への道筋が見えたかと思われた。

 しかしイスラエルはやがて態度を硬化させ、占領地の行政や治安の実権を握り、入植者を次々と送り込む。パレスチナ人が昔から暮らす村を「軍の訓練場」だと称し、村人を追い出しにかかる。ブルドーザーで強引に家を破壊。電柱を倒し水道管を切断。井戸をミキサー車のコンクリートで埋める。そこまでやるか⁉ 住人がいくら抗議しても「仕事の邪魔だ」と排除。抵抗した男性は銃で撃たれた。母親が頭を支えると血が垂れかかった。

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 この地でバーセルは生まれ、イスラエルの行為をスマホで全世界に発信してきた。まさに「パレスチナ対イスラエル」という従来の構図だが、そこに変化をもたらしたのがイスラエルのジャーナリスト、ユヴァル・アブラハームの登場だ。バーセルの活動をネットで知り、自分にできることはないかと村を訪ねてきた。学生時代にアラビア語を学んだからパレスチナの人々と会話ができる。バーセルの案内で村を回るが住人の反応は冷ややかだ。

「ユダヤ人? マジか、人権派のイスラエル人? 君の国の仕打ちは犯罪だよ。私有地を“軍用地”にするのが正義か?」